お茶席の菓子を司る

公家から菓子を司るようにと、
命じられてこその“御菓子司”。

人や場所、モノとの出逢いは、偶然に見えて必然やなぁ…と、しみじみ思わされることがようあります。
一つ前の「一之舟入 un cafe Le Petite Suetomi」を紹介することを書く時にも、『なんで「末富」はんはブルーの包装紙を使こたはんのやろ?』と疑問に感じましたよってに、本店におじゃましてお店の方に伺おうとしたところ、『連絡先を教えていただいたら、またこちらから連絡します』と言われて、名刺を置いて帰りました。

末富山口富藏さん

菓子屋と饅頭屋、餅屋は、
本来別々の業種なんです。
 「末富」三代目当主・山口富藏さん

そしたら二日ほど経って、なんと三代目の当主である山口富藏社長から直々に連絡をいただき、暫し電話でいろいろとこちらの疑問を投げかけたところ丁寧に答えてくれはった上に、『また良かったらお店にも寄っとくれやす』と言うてもらいましたさかいに、お言葉に甘えて翌日お店に伺うことに…。こんな時代になっても公式ホームページを開設したはらへんだけに、貴重な機会を設けていただくのは有り難いことでした。

「末富」さんの本店は、松原通室町東入ルにあるんどすけど、今の松原通は平安京の五条通。昭和30年頃までは祇園祭の山鉾巡行も通ってたそうで、通の北側の家までが八坂神社の氏子さん、南側の家は伏見稲荷大社の氏子さんというように、ある意味では洛中と洛外の境目やったとも言います。

「末富」さんの創業は、明治26年。初代は京都の御菓子司でも老舗中の老舗と呼ばれる、1804年創業の「龜末廣」で修業された後、暖簾分けの形でこの地に「亀屋末富」を創業されたそうどす。
「龜(屋)末廣」からの暖簾分けやから「亀屋末富」。こうしてお店の名前や暖簾を見るだけで、そのお店の主人が何処で修業をしたのかが窺えたという倣わしも、師匠とお客さんへの気遣いやったのかも知れませんなぁ…。

ところで、この“御菓子司”という名称ですけど、これは江戸時代まで京にようけ居てはったお公家さんの家から、『当家で供するお菓子を、すべてそなたに任せる』と言われて初めて名乗ることができたのやとか。当時“御菓子司”と名乗れるお店は248軒と決まってたそうですけど、それでも当時は『石投げたら菓子屋に当たる』て言われたというのも頷けます。

ちなみに、“餅屋”や“饅頭屋”は“御菓子司”とは区別されていて、そこから『餅は餅屋』という諺も生まれたみたいどすね。

ちょっと話が逸れてしまいましたけど、“御菓子司”は主人たるお公家さんのお家の季節の行事などが催される際には呼ばれて、『何月何日に誰と誰を呼んで一席設けるから、お菓子を用意するように』と告げられ、季節や行事の内容はもちろん、そのお席で設えられるお軸やお花、使われる茶器なども訊き、お店に帰ってからその条件に相応しいと思われる意匠を考えたはったそうです。

 明治の時代になると天皇ご一族が江戸へ移られたのに伴い、お公家さんのほとんども一緒について行きはったと言いますから、“御菓子司”にとっては一大事やったことでしょう。現に「虎屋」さんなどはその折に、本店を江戸に移したはりますさかいに、「(亀屋)末富」さんもいろいろ苦労をなされたのやろうと想像できます。その後の努力もあり、今では東本願寺や知恩院はじめ様々な宗派の本山の御用や、茶道各流派の御用も承ったはります。
 最近は1,000人規模の大茶会が催されることもあるそうで、そんな要望に応えながら通常の菓子づくりもこなさなければならないのが、現在置かれている“御菓子司”の立場やそう。
 その通常の菓子づくりも、見る人に季節感を感じてもらうためにと、店頭に並ぶ生菓子はほぼ一週間ごとに入れ替えられます。
 はじめに伺った時は節分前やったよってに、鬼の顔を模った「追儺」や「梅」がおましたけど、お話を伺いに訪ねた節分後にはその姿はなく、「うぐいす餅」なんかがおました。

rappingpapers 季節や倣わしを鑑み、そこに能や源氏物語の一場面などを映し出すのが“御菓子司”の主人の腕の見せ処。そのためにはそういった古典などに触れるのも勉強の一つと仰る山口富藏さん。
業種は異なるけどもたくさんの人たちと交際される中で、一流料理人から受けた影響も少なくないそう。それは寄り合いでの立ち居振る舞いであったり、遊び方も含まれれるのやとか。初代当主が、あの“末富ブルー”の包装紙を依頼した池田遥邨だけでなく、京都画壇の富田渓仙、西山翠嶂、佐野五風たちにも別の包装紙の意匠を頼まれたのは、同じようにそんな付き合いの中で育まれたご縁に由るものだとも。

氏の話を伺っていると、その仕事へ取り組む姿勢と共に、京の町衆本来の暮らしぶりまでが窺え、いつまでも話が尽きひんことでした。

entrance
京菓子司 末富

京都市下京区松原通室町東入ル
Tel.075-351-0808