【言っておきたい古都がある】

驚きの伏見(前編)

~江戸時代は伏見時代になっていたかもしれない~

 このコラムでも紹介したが、昨年は伏見稲荷が訪日外国人からベスト1の観光地に選ばれた。千本鳥居の「神秘性」なども理由のひとつだが、外国のネットなどでは「タダだから」というのが魅力という本音も飛び交っている由。
 そこで新年早々ということもあり、伏見についてスケールの大きな話をひとつ。
 しかしてその内容は?

伏見は日本の首都になっていたかもしれない!

 われわれが教科書で習った江戸時代というのは、ひょっとしたら伏見時代になっていたかもしれないのである。否、もうあと一歩のところまで行っていたのである。
 どういうことか?

b05b 伏見というのは万葉集にも出てくるし、平安時代になれば『枕草子』や各勅撰集にも登場する。
 しかし、やはり伏見が全国ネットの有名な地になったのは豊臣秀吉が伏見城を築いてからであろう。
 で、ガイドブックなどにはここが秀吉の「隠居所」だったと書いているのがあるが、私はそれは違う、秀吉は隠居するつもりなどではなく、ここ伏見を拠点にして全国支配を続けるつもりであったと見る。
 つまり秀吉の伏見城築城計画というのは「隠居所作り」ではなく「新首都建設」だったというお話なのだ。

 まず、秀吉による新しい伏見の町作りというのが半端ではない。
 秀吉は京の都も大改革しているが、伏見もそれに負けていない。

(1)文禄3年(1594)10月、前田利家に填島堤を築かせ、宇治川を巨椋池から分離して北上させ、山下まで引き入れた。
(2)慶長元年(1596)正月、毛利や小早川などの大名に淀から三栖までの堤防を築かせて、淀川を宇治川と桂川に直結させ、伏見に港としての機能を持たせた。
(3)宇治川に豊後橋を架け、新大和街道を開いた。
(4)木幡山の山上に防禦用の内堀を作った。
(5)伏見城の西側にも外堀を作った。そしてそのときに出た土砂で外堀西側の低湿地帯を埋め立てた。
(6)七瀬川の水流を曲げて総外堀とし、城下町を囲んだ。

 いくら秀吉が大きいものを作るのが好きな人だったとはいえ、これはもう「隠居所」のレベルを越えているだろう。
 これらの工事は、朝鮮出兵の和平交渉で明の使いを招くためだとされているが、ただ招くなら京都でも大坂でも良いだろうに。
 戦争を終らせるという重要な外交交渉の使節を招くのである。その記録は相手側の国にも残る。ならばその会見の場所は「首都」であるべきではないか。

1b4c510fd9f9d72abb6f57d4d62a2834359bbbf4 贅を尽くした新しい建物で明の使節を受け入れたいだけなら京の都に作っても良いはずである。
 朝鮮出兵というのは日本が負けた戦争であるが、秀吉は「勝った」と思っている。明を屈服させたと思い込んで意気揚々とし、「相手が頭を下げに来る」のを受け入れて「会ってやる」というのが秀吉のスタンスだった。
 つまり相手より自分のほうが偉いと思ってたのだから、ここでドカーンと立派な施設を作り相手を圧倒しようと考えても不思議ではない。

 ただ、その場所が京の都ではなかったというのは、京というのは昔から朝廷があり「既存の都」である。それでは秀吉の意にかなわなかった。
 朝鮮も明も倒した(と思っている)のだから、これからの日本は新しい時代に入る。まさに豊臣家の天下になるのである。
 そのために今までの京の都とは違う、新たな国の中心を作る。
 その中心の地に選ばれたのが伏見であった。

 伏見における「太閤さんの町作り」は隠居のための、つまり引退後に余生を過ごすための町作りではなく、日本国の新首都建設であった。
 しかし何故、京の都では具合が悪かったのか?

 それは、天皇陛下がおられるから。

 秀吉は「自分が日本で一番偉い」として明の使節と会見する。
 だけど、京に招いたのでは天皇陛下がいて、明側が「秀吉さんより天皇さんのほうが偉いの?」などと思ったりしては困るのだ。
 だから京とは違う場所を選定した。
 
 江戸時代だって、京都に天皇陛下がいたまま江戸で政治をして、江戸が事実上の首都だったのであるから、天皇陛下は京都にいたまま伏見で政治を行えば、伏見が事実上の首都ということになる。
 天皇のいる場所と政治の場所を分離する。鎌倉時代のようなものだ。ただ場所は近い。
 もうあとちょっとのところで、われわれが教科書で習う「江戸時代」というのは存在せず、「伏見時代」になっていたはずなのである。

 さて、ではこうなると「なぜ伏見なのか」という疑問が出る。
 その答は来週に続く。

【言っておきたい古都がある・116】

バックナンバー by 谷口 年史
伏見街道を行く(その1)〜(その5)
http://kyoto-brand.com/read_column.php?cid=5487
もご参照ください