クリックでスライドショー
「おみこっさん、きゃぁはったで〜」と、
奥にいる家族への声かけが聞こえる。うなぎの寝床から駆け出してきた家族は神輿に向かって頭を垂れていた。
大宮通から三条通を経て、御供社から堀川通、新町通界隈で幾度となく見かけた情景である。
烏丸通や四条通の大路ではもう見られることが少ない。
三条会商店街では、御供社の手前で京都よかろう太鼓を打ち華やかに出迎え、御供社を過ぎたところでは祇園太鼓を激しく打ち、おかえりの神輿を見送っていた。
祇園祭への変わらぬ町衆の熱い想いが、その町の風情とともに残されているのを感じた。
御供社から八坂神社への復路は三座の神輿とも同じである。
三条通を東へ真っ直ぐ寺町通へ、寺町通を四条御旅所まで下がり、四条通に出ると東へ祇園石段下へ、神幸通から南門を潜り舞殿への着御となる。
神輿に着き歩くと町の表情の違いが伝わってくるが、その前後の小路を往くのも乙なものである。雑踏を避けると歩きやすいばかりではない。祭りの喧騒にない京の一面がどこででも見られる。
三条通を一筋上り、あるいは下り行くと、薄暗い町家の軒にほのかに灯る祭提灯が続いている。神輿こそ通らないが祭の夜の往時の京風情を感じさせられる。
堀川三条から寺町三条までは姉小路通を選び、小生は自転車のペダルをこいだ。
これだ。祭りの夜はこの情緒が良い。特に姉小路は町家の町並みを大切に残されているから更に良い。
大通りのサインで明かるい通りは走りたくないと思った。
南北の通りを越すときに、ホイトホイトのかけ声が遠くに聞こえている。
室町三条で幼子が集まり花火をしてもらっている。浴衣姿が可愛い。
花火の明かりに照らし出され、無邪気で無垢な表情がわかる。
神輿の神霊が寄り代として宿られるのではないかと思うほどである。
さらにペダルをこぎ、八坂神社へと先回りして、出迎えることにした。
御幸町通を四条まで下がり、四条通を東へ一直線に石段下まで走る。
四条大橋を通る川風が頬を撫でる。自然な風でとても心地よい。川床で涼をとりたくなる人の気持ちに共鳴する。
しばし、川風にあたり再出発。
午後9時半、 八坂の朱の鳥居が浮かび上がっているのが見えてきた。
見物場所を確保しなければと祇園さんの境内へ入ったが、黒山の人盛りであった。
どの神輿も石段下に近づくと、一層の活気を帯びてくる。あと一息である。
祇園商店街のアーケードに浮かびだされた四条通の闇に、ほの暗い提灯が揺れ、近づいてくる。神輿会の旗が左右に大きく棚引き、「よーさぁ よーさぁ」と迫ってきた。
三若の中御座は、西楼門に向かい差し上げたまま、前後に「ホイトホイト」と振られた。石段下での神輿振りを存分に見せてくれた。
四若の東御座は、「差せぇー」、高々と神輿が伸び上がる。「回せぇ」の号令に、「回せ」の掛け声で応え、神輿が回りを見渡すようにゆっくりと回転しだす。
名残惜しさがそうさせるのか、回りだした神輿は止まることがないかのように何周も何周も回された。
「せーえの」「よいさぁ」「せーえの」「よいさぁ」と肩を整えると、
「よいよいよいよぉい」の掛け声に、足を後ろへ蹴り上げ「ホイットホイト」の掛け声と輿丁の手拍子で、神幸道へ還って行く。
この頃に、中御座は舞殿の廻りを3週担がれる「拝殿回し」を行い、舞殿に着座され、西御座は縄手四条あたりを練っている。
小生は西楼門と北門側から本殿を何回も往復した。この参詣路は空いていて、境内と石段下の様子を伺うのに都合が良いのである。
錦の西御座が石段下に入ってきた。祇園祭の境外氏子町最後の神輿振りになる。
屋根に取り付けられた提灯の「西御座」「錦」の文字が赤い提灯に浮かび上がっている。
「よぉ〜さぁの!チャチャチャ(手拍子)。よぉ〜さぁの!チャチャチャ(手拍子)。よぉ〜さぁの!チャチャチャ(手拍子)。おぉ〜!」
取り囲む輿丁の両手が上にあがる。これは祇園祭での手締めである。
続けて神輿は担がれ動く。石段下交差点の西から北の端へ、「ホイットホイト」。
北端から朱の楼門前へ。差し上げられた。「ホイットホイト」と、そのまま飛び跳ねるように上下に振られた。
観衆からも手拍子と掛け声が加わった。「ホイットホイト」「ホイットホイト」
その声は夜空に鳴り響き、神輿は周りの者をも引き込んでゆく。得体の知れないそれは暗闇の中で、屋根や飾り具を鈍く光らしていた。
朱の楼門から南端へ、跳ね上がる足に押され神輿は進み、「シャンシャン」という飾り具の揺さぶり音と「ホイットホイト」の掛け声を交互にして石段下に残し、神幸道へと姿を消していった。
境内に戻ると、中御座は着座し、東御座の拝殿回しの最中である。
本殿と舞殿の間で差し上げし揺さぶられている。南楼門との間でも差し上げし揺さぶられた。大歓声は東山にも届くかの熱狂である。
ナリカン(鳴り環)やナガエ(轅)が外され、東御座が舞殿に着座されるや、まもなく西御座が南楼門を潜り、拝殿回しとなった。
三座が着座されると、一斉に灯が落とされ、境内は真っ暗闇となった。
先ほどの熱狂が嘘かのような静寂が保たれた。
雅楽の低く鈍い弦の音が「ブン ボロン」と奏でられ、神職の警蹕(けいひつ)が「ヲーーーウッ」と発せられている。
闇に浮かぶ白布に囲まれた神職が舞殿の神輿から、本殿へ三座の御霊を遷されていたのである。
混沌とした現代政治では、解決できない国民生活の問題が山積している。
牛頭天王(素盞嗚尊)はあらゆる災厄を退治してくださるとはいえ、自らの為す技なくしては聞き入れてはくれないのだろうか。
夏越祓の茅で茅の輪を結び、チマキを軒下に飾りつけ、我が家の平成平安を祈った。
これで今年の祇園祭も幕を下ろした。
奥にいる家族への声かけが聞こえる。うなぎの寝床から駆け出してきた家族は神輿に向かって頭を垂れていた。
大宮通から三条通を経て、御供社から堀川通、新町通界隈で幾度となく見かけた情景である。
烏丸通や四条通の大路ではもう見られることが少ない。
三条会商店街では、御供社の手前で京都よかろう太鼓を打ち華やかに出迎え、御供社を過ぎたところでは祇園太鼓を激しく打ち、おかえりの神輿を見送っていた。
祇園祭への変わらぬ町衆の熱い想いが、その町の風情とともに残されているのを感じた。
御供社から八坂神社への復路は三座の神輿とも同じである。
三条通を東へ真っ直ぐ寺町通へ、寺町通を四条御旅所まで下がり、四条通に出ると東へ祇園石段下へ、神幸通から南門を潜り舞殿への着御となる。
神輿に着き歩くと町の表情の違いが伝わってくるが、その前後の小路を往くのも乙なものである。雑踏を避けると歩きやすいばかりではない。祭りの喧騒にない京の一面がどこででも見られる。
三条通を一筋上り、あるいは下り行くと、薄暗い町家の軒にほのかに灯る祭提灯が続いている。神輿こそ通らないが祭の夜の往時の京風情を感じさせられる。
堀川三条から寺町三条までは姉小路通を選び、小生は自転車のペダルをこいだ。
これだ。祭りの夜はこの情緒が良い。特に姉小路は町家の町並みを大切に残されているから更に良い。
大通りのサインで明かるい通りは走りたくないと思った。
南北の通りを越すときに、ホイトホイトのかけ声が遠くに聞こえている。
室町三条で幼子が集まり花火をしてもらっている。浴衣姿が可愛い。
花火の明かりに照らし出され、無邪気で無垢な表情がわかる。
神輿の神霊が寄り代として宿られるのではないかと思うほどである。
さらにペダルをこぎ、八坂神社へと先回りして、出迎えることにした。
御幸町通を四条まで下がり、四条通を東へ一直線に石段下まで走る。
四条大橋を通る川風が頬を撫でる。自然な風でとても心地よい。川床で涼をとりたくなる人の気持ちに共鳴する。
しばし、川風にあたり再出発。
午後9時半、 八坂の朱の鳥居が浮かび上がっているのが見えてきた。
見物場所を確保しなければと祇園さんの境内へ入ったが、黒山の人盛りであった。
どの神輿も石段下に近づくと、一層の活気を帯びてくる。あと一息である。
祇園商店街のアーケードに浮かびだされた四条通の闇に、ほの暗い提灯が揺れ、近づいてくる。神輿会の旗が左右に大きく棚引き、「よーさぁ よーさぁ」と迫ってきた。
三若の中御座は、西楼門に向かい差し上げたまま、前後に「ホイトホイト」と振られた。石段下での神輿振りを存分に見せてくれた。
四若の東御座は、「差せぇー」、高々と神輿が伸び上がる。「回せぇ」の号令に、「回せ」の掛け声で応え、神輿が回りを見渡すようにゆっくりと回転しだす。
名残惜しさがそうさせるのか、回りだした神輿は止まることがないかのように何周も何周も回された。
「せーえの」「よいさぁ」「せーえの」「よいさぁ」と肩を整えると、
「よいよいよいよぉい」の掛け声に、足を後ろへ蹴り上げ「ホイットホイト」の掛け声と輿丁の手拍子で、神幸道へ還って行く。
この頃に、中御座は舞殿の廻りを3週担がれる「拝殿回し」を行い、舞殿に着座され、西御座は縄手四条あたりを練っている。
小生は西楼門と北門側から本殿を何回も往復した。この参詣路は空いていて、境内と石段下の様子を伺うのに都合が良いのである。
錦の西御座が石段下に入ってきた。祇園祭の境外氏子町最後の神輿振りになる。
屋根に取り付けられた提灯の「西御座」「錦」の文字が赤い提灯に浮かび上がっている。
「よぉ〜さぁの!チャチャチャ(手拍子)。よぉ〜さぁの!チャチャチャ(手拍子)。よぉ〜さぁの!チャチャチャ(手拍子)。おぉ〜!」
取り囲む輿丁の両手が上にあがる。これは祇園祭での手締めである。
続けて神輿は担がれ動く。石段下交差点の西から北の端へ、「ホイットホイト」。
北端から朱の楼門前へ。差し上げられた。「ホイットホイト」と、そのまま飛び跳ねるように上下に振られた。
観衆からも手拍子と掛け声が加わった。「ホイットホイト」「ホイットホイト」
その声は夜空に鳴り響き、神輿は周りの者をも引き込んでゆく。得体の知れないそれは暗闇の中で、屋根や飾り具を鈍く光らしていた。
朱の楼門から南端へ、跳ね上がる足に押され神輿は進み、「シャンシャン」という飾り具の揺さぶり音と「ホイットホイト」の掛け声を交互にして石段下に残し、神幸道へと姿を消していった。
境内に戻ると、中御座は着座し、東御座の拝殿回しの最中である。
本殿と舞殿の間で差し上げし揺さぶられている。南楼門との間でも差し上げし揺さぶられた。大歓声は東山にも届くかの熱狂である。
ナリカン(鳴り環)やナガエ(轅)が外され、東御座が舞殿に着座されるや、まもなく西御座が南楼門を潜り、拝殿回しとなった。
三座が着座されると、一斉に灯が落とされ、境内は真っ暗闇となった。
先ほどの熱狂が嘘かのような静寂が保たれた。
雅楽の低く鈍い弦の音が「ブン ボロン」と奏でられ、神職の警蹕(けいひつ)が「ヲーーーウッ」と発せられている。
闇に浮かぶ白布に囲まれた神職が舞殿の神輿から、本殿へ三座の御霊を遷されていたのである。
混沌とした現代政治では、解決できない国民生活の問題が山積している。
牛頭天王(素盞嗚尊)はあらゆる災厄を退治してくださるとはいえ、自らの為す技なくしては聞き入れてはくれないのだろうか。
夏越祓の茅で茅の輪を結び、チマキを軒下に飾りつけ、我が家の平成平安を祈った。
これで今年の祇園祭も幕を下ろした。
5245-090804-7/28
関連歳時/文化
関連コラム
祇園祭といえば……
- 茅の輪潜りにきゅうり封じ
サプリメントだけでは物足りない方にお勧め - 祇園祭 鱧
鱧祭 利口に鱧を食べ尽くす - 祇園祭 鉾町の和菓子
日常の衣食住が競い文化芸術に昇華す - 祇園祭 異文化とのであい
異端の新モノも時経てばいつしか古きものに - かも川談義 / やっと夏 祇園祭だ 夕涼み
京の母なる川の歴史と夕涼み - 祇園祭 清々講社
町衆が和御霊が合体するとき悪霊が退散する - 知られざる祇園祭 神宝奉持列
宮本組、神恩感謝で「お宝運び」 - 宮本組・祇園祭吉符入りと神宝奉持籤取
神々の先導者が準備を始める - 春祭/ 下鴨神社 御蔭祭
京都最古の祭は神馬に神霊を移す - 葵祭 雅と勇壮
凶作を祓う賀茂競馬こそが葵祭のルーツである - 粟田大燈呂 ねぶた祭の原点か
小京都はあるが小京都祭はないなぁ - 知られざる祇園祭 / 鱧祭り
祇園祭で2万匹ものハモを食う - 後祭を追っかけて 前編
もうはまだなり、まだはもうなり、後の祭り - 祇園祭のおいで
諸手を上げて、大歓声でお迎えしましょう - 祇園祭 お迎え提灯
それぞれの時代、民衆がこの祭りをあつくしてきた
後祭といえば……
- 後祭を追っかけて 前編
もうはまだなり、まだはもうなり、後の祭り - 祇園祭 後祭の花笠巡行
伝統文化の大義を効率理性から守りたい - 祇園祭 山鉾のほんとの巡行
大トリ鉾の復活で明日の日本に力を蘇らせる - 変わろうとも変わらずとも 祇園祭は祇園御霊会
時代が祭りを再製する - 祇園祭あれこれ
鱧食って 祭を語る - 知られざる祇園祭 / 後の祭り
祇園の後祭に全国の祇園祭が大挙動いた
中御座といえば……
- 祇園祭のおいで
諸手を上げて、大歓声でお迎えしましょう - 祇園祭 お迎え提灯
それぞれの時代、民衆がこの祭りをあつくしてきた - 知られざる祇園祭 点描 神輿洗と四若
変わらぬ伝統と変わらざるを得ない事情 - 祇園祭三若の吉符入り
疫病退散に立ち向かう男の覚悟 - 祇園祭 神輿洗いと祈り
水と火が清め、人々は設える - 前祭 山鉾巡行・神幸祭
鉾がなおされ、いよいよ祭りも本番 - 変わろうとも変わらずとも 祇園祭は祇園御霊会
時代が祭りを再製する
東御座といえば……
- 祇園祭のおいで
諸手を上げて、大歓声でお迎えしましょう - 祇園祭 お迎え提灯
それぞれの時代、民衆がこの祭りをあつくしてきた - 知られざる祇園祭 点描 神輿洗と四若
変わらぬ伝統と変わらざるを得ない事情 - 祇園祭三若の吉符入り
疫病退散に立ち向かう男の覚悟 - 前祭 山鉾巡行・神幸祭
鉾がなおされ、いよいよ祭りも本番 - 変わろうとも変わらずとも 祇園祭は祇園御霊会
時代が祭りを再製する
西御座といえば……
- 祇園祭のおいで
諸手を上げて、大歓声でお迎えしましょう - 祇園祭 お迎え提灯
それぞれの時代、民衆がこの祭りをあつくしてきた - 知られざる祇園祭 点描 神輿洗と四若
変わらぬ伝統と変わらざるを得ない事情 - 祇園祭三若の吉符入り
疫病退散に立ち向かう男の覚悟 - 前祭 山鉾巡行・神幸祭
鉾がなおされ、いよいよ祭りも本番