千年前からやってます

電力使用制限令発動 by 五所光一郎

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今年平成23年の梅雨入りは、例年より15日も早い史上2番目の梅雨入り宣言となった。昨年の真夏日を越えた猛暑日という単語の誕生、今年3月の東日本大震災津波被害放射能汚染と、非常事態と思わざるを得ない日本、地球の叫びを肌身に感じる。

種々の論評が報じられるが、何より素直に、自然や神に祈りを捧げたい今日この頃で、そろそろ近代の魔法から覚めて、先人の素朴な智恵を見直すときが迫っているように思えてならない。

原発事故などによる深刻な電力不足が懸念される夏場に向けて、電気事業法に基づいて契約電力が500キロワット以上の大口需要家を対象に最大使用電力を制限し、昨夏のピーク時と比べて15%減らすよう強制する方針の基、政府は東京、東北の両電力管内で「電力使用制限令」なるものを発動した。
従わない場合には100万円以下の罰金が科されることになるそうだ。

自由経済下の高度経済成長時代を謳歌し、個人主義の蔓延る社会に人生の大半を置いていた者にとっては、この電力使用制限令は夙に険しく感じられ、戒厳令の予兆にさえ感じる。

制限令下にない西日本にあっても、原発は存在し、その原発に事故のない保証もなく、メルトダウンを即座に完全制止させる術が結局人類にはなかったのである。
原発を完全停止させても、日常経済や生活が行えるレベルにまで、電力消費を抑制する必要があるのではないか。
ソフトランディングしていく為の全国民的抑制がない限り、我々の日常と生命は安全でなく、綱渡りしていると考えなければならないと思う。

想定外の自然災害と、作動しない偶然の事故が重なった、一地域の出来事であってほしい。しかし、この度の計画停電も制限令に到る原因は、人災にあることだと誰もが等しく分っている筈である。
制限令の電力使用15%減は、あくまで今夏の電力使用ピーク時の大停電の未然防止のためのものである。根本的な電気エネルギー対策ではない。
安全ピンのない原子爆弾を抱えての生活を続けていることに気づかねばならないのではないだろうか。

そうした認識の上での救済と復興を肝に命じなければ、同じ過ちを犯すことになるだろう。そして、いずれ爆発するとの覚悟を決めて、全国民的レベルでの中期的な使用電力の抑制とエネルギー転換を行わなければ、ソフトランディングは成功しない。

快適な生活を維持しながらエネルギー転換を図るなど、耳障りの良いリップサービスなど必要ない。日本が沈没しないよう、国民が近代的生活レベルを抑制することが必要に思えてならない。

そうなれば、モノサシを持ち替えることである。

誰もが貧しいのは嫌であろう。豊かでありたいはずだ。
何が豊かなのかが重要になる。つまるところ文化の問題である。

電力のピーク時の回避だけなら、早朝深夜も、土日も電力は余っているというなら、時間外労働じゃなく普通にその時間帯に操業し、仕事をすれば良い。誰でもが考えられることである。深夜労働が特殊な労働形態だとする常識を変えればよい。国家的にそうする決断でよい。至極簡単明瞭ではないか。

エアコン温度設定を抑制し、クールビズでノータイ、サンダルになり、サマータイムの導入など、既に実行しようとしているではないか。
オフィスで風鈴が揺れて、水琴窟の音が響いていても良い。室内外に滝が無理なら、緑が増えても更に良い。

動機に不純がなければ、常識や規則に縛られることはない。率先垂範者を誰にさせるかで転換できるというものだ。
議事堂を模様替えして見せれば広まりは早いだろう。

次に、身近なところで、自宅で今夏をどう乗り越えるかだ。
耳障り良くカタカナでいえば、「スローインテリア」と。
京都の歴史と伝統に受け継がれているものに、その多くが見られる。

平安時代の宮中行事にあった「更衣」、現在の夏服と合服と冬服を入れ替える「衣替え」はクローゼットになっても、誰もがやられていると思う。
着物の衣替えは、6月は単衣(ひとえ)、7月8月のふた月は薄物(うすもの)、9月に単衣で、10月から5月が袷(あわせ)を着るので、6月と10月に箪笥に入れ替えされる。
気候のせいか日本特有の習慣のようである。

それと同様に、住まいの衣替えとなる「建具替え」がある。
鴨川の本床開きが行われる時季で、京都の夏支度なのである。なにも町家に限ったことではない。和室なら勿論、洋室でもされるところは少なくない。
しつらえ替え」「模様替え」と呼ぶところもある。

小生宅では、今や「杉戸」や「葭障子(よししょうじ)」などはないので、「網代(あじろ)」を敷き「簾(すだれ)」を掛けるぐらいであるから、「建具替え」にたいした労力もいらない。

お茶屋や老舗の京料理屋、旧家に行くと、誇り高く飴色に光る「葭障子(葦戸/よしど)」に「簾」、「網代」、「杉戸」、「籐莚(とうむしろ)」などが昔のままに収まり、坪庭も座敷庭までも見通せる場所に腰を下ろすと、その暗めの部屋に通る風に感動させられてしまう。

玄関先や坪庭に打ち水されていると、涼やかに見えるだけでなく、風が冷ややかになり、団扇や扇風機の風も涼を運ぶ。エアコンや除湿機のドライで十分だろう。
電力量のことはわからないから、専門家にシュミレーションさせて広報啓蒙してもらいたい。

鉄筋コンクリートのマンションだからできないわけではないだろう。
リビングに網代を敷き、窓に簾や葦簀(よしず)をかけ、水滴の玉が光るほどに水打ちして、ソファやクッションも竹か籐製のものを用い、藍染のテーブルセンターにたっぷり水を含んだ苔玉の鉢を置き、まだまだ京町家に習い、応用できることはある。

猛暑の続く昼下がり、かすかな涼感を肌に感じる感性を呼び起こすことである。
網代のひんやりとした感触が足裏に伝わってくると、横たわり昼寝をしたくなる筈である。時折流れる風が通るものなら、風鈴の音は天国である。
感性を重視する文化があるからこその賜物かもしれない。

原子力も電力も、素人の我々にはどうすることもできない。
節電に止まらず、今すぐスイッチチェンジできることから始めてみようではないか。捨て去った文化を見直すときが間違いなく来ている。

祖母の言葉を思い出した。
「夏はな、雑巾を固う絞ったらあかんえ。ゆるうに絞って拭いとくんや。」


電気事業法第27条による電気の使用制限の発動について
http://www.meti.go.jp/earthquake/shiyoseigen/index.html
受け継いだ京の暮らし 杦庵の「萬覚帳」
http://kyuuan.exblog.jp/11246617/


【参照リンクには、現在なくなったものがあるかもしれません。順次訂正してまいりますが、ご容赦ください。】
5390-110607-6月

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