干支のバトンタッチが始まろうとしている。
十二支の兎から引き継ぐ年は「辰歳」である。その年の強い守り神となるのが「辰」とは心強いではないか。
「辰」は「漢書律暦志」に記され、「龍」とも、「竜」とも書くのだが、中国神話の神秘的な生物であった殷代(西暦前17〜11世紀)甲骨文字にある「竜」を後に宛てさせたようである。
その「竜」という文字を空想の珍獣のイメージに更に近づけようと考え、後世になって、荘厳かつ複雑にしたのが「龍」という文字だそうだ。
その空想の珍獣の特徴は、ラクダの頭・鹿の角・鬼の目・牛の耳・蛇の額・虎の手・鷹の爪・大蛇の腹・鯉のウロコ等、種々の動物の強力な部分を取り込んだ地上最強の動物と考えていたのである。
その龍は、十二支の中で唯一の空想された伝説上の動物なのである。
社寺に参詣すると、まず最初に手水舎で出会うことが多いのは龍である。
その口から水が落とされている。
仏教では、釈迦が生誕した際に二匹の龍が清浄水をそそぎ、成道(じょうどう)の時に七日間の降雨を身に覆(おお)って守護したと伝えられることから、水神として信仰されてきたのだろう。そして、法の雨、つまり仏法の教えを守護する神獣として考えられてきたからであろう。
中国風水に習い四神相応の地として平安遷都した折鴨川を青龍と見立て、旱魃(かんばつ)が続いた雨乞いでは龍神に食べ物や生け贄を捧げた歴史もあり、弘法大師の神泉苑の雨乞いでは善女龍王(清瀧権現)を呼び、雨を降らせたという逸話も残っている。
相国寺法堂で龍の鳴き声と言われる「鳴き龍」を聞いたことがある。
狩野光信筆の龍の天井画の下で手を打つと、「ばあぁーん」と響き、それは龍が鳴いている声だというのである。
古来より京都には龍神のパワーがあるといわれ、「龍神巡り」などというものもある。
石清水八幡宮〜東福寺〜泉涌寺〜神泉苑〜相国寺〜妙心寺〜天龍寺〜龍安寺〜貴船神社と、九つの寺社を巡り、南からはじめるのを昇り龍コースと呼び、北からはじめるのを下り龍コースと呼ばれている。
法堂の天井や襖に潜む龍を眺め、龍穴や湧き出る霊泉水と祭神に肖る通い旅となる。拝観日が限られているので、事前確認だけはお忘れなく。
他にも、知恩院・金戒光明寺などの楼門の天井に描かれた龍や、南禅寺、大徳寺、建仁寺の法堂の雲龍図を巡るのも良いが、公開時でないと見ることはできない。来年はいずれも同時公開が期待できそうだが、いかがだろうか。
しかし、見当たらないのは狛犬ならぬ狛龍なのである。
龍神さんを祀る八大龍王社(宮)はいくつかの寺院に見られるが、祭神であって神使いの霊獣ではない。
誠に結構なことではあるのだが、狛干支巡りを続ける小生には、無くては困り果てたことになるのである。
ところが、運よく知人からいい情報を得た。
「伏見稲荷のお山にある『伏見神宝(かんだから)神社』へ行ってみろ」、とのことだった。
お稲荷さんの裏参道を歩き手水舎で口を漱ぎ、狛狐とお見合いし、楼門から西の空を眺めると大きく青い空が開けていた。
参拝図を確認したが「伏見神宝神社」は記されていなかった。辿り着けるかと少々心配だったが、お山を歩くには絶好の日和で気分は楽になる。
まずは、本殿に参詣。摂社や末社への参拝は勘弁してもらい、千本鳥居を潜り奥社へと向かった。
奥社の山手だと聞いていたが、念のため、巫女さんに道順を尋ねた。
お山に続く鳥居を進めば1分位のところに右手に登る坂があり、小さな案内板が出ているとのことだった。
案の定標識があった。奥社を見下ろすように坂道が続く。150mを5分ほどかけて登ると、社号の石標が見えた。
「神宝宮」とある扁額を中心に、左右に見えるのはラクダのようだが、近づくと、間違いなく龍である。これぞ初めてみる「狛龍」である。
由緒書きによると、天照大御神を主祭神として、稲荷大神を配祠され、日本最古の神器「十種(とくさ)の神宝」を奉安している。
その授与品のなかに「十種神宝のお守」というものがあり、大極と小極を表わす二つの鏡、破邪顕正の勇気をあらわす一つの剣、邪気を払い英知導き魂を整える四つの玉、天地と宇宙並びに人体を浄めて神人一致への作用を結ぶ働きの三つの比礼(古代の襟巻き)の印からなる神秘なお守という。
「死れる人もかへりて生きなむ」との秘文(ひふみ)祝詞を奏上し、病める者への加持祈祷、魂を鎮め再生を祈る鎮魂に、崇敬者よりの篤い信仰があるという。
拝殿前の向かって右に天龍、左に地龍が建てられ、本殿向かって左に摂社「龍頭社(りゅうずしゃ)」があり、龍頭大神が祀られていた。山の地主神といわれ、かぐや姫(竹鳥物語)にも由来するご祭神とも記されている。
「龍の顎(あご)に五色に光る玉あり、それをとりて給へ」と、なよ竹のかぐや姫は、大伴の大納言に龍の玉を希望したそうである。
手狭な境内をぐるりと回ると、その境内は竹林に取り囲まれていた。
その情景は、竹取物語の原郷が深草であるとした文学者の研究に相応しい情景が確かに伝わってきた。
いみじくも、そこにはタケノコ石が祀られ、神の降臨を表わすかごとく、古代信仰さながらの竹の鳥居が建てられていた。
その場は稲荷山を遥拝する位置となっており、東山三十六峰の最南端、稲荷山の一の峰、二の峰、三の峰の西にあたり、笹に覆(おお)われた旧蹟丸山(伝法岡)と称する頂きである。
稲荷三峰から稲荷三座が下ろされ里宮に祀られる以前、神宝神社は円山の名の示すように、重要な祭礼をおこなう場所だったようだ。
狛龍を観て満たされた帰路、伏見街道を北へ東福寺駅まで歩いた。
巷の龍神巡りでは謳われない希少な龍が棲むところがあるからだ。
江戸中期に行商から大呉服商になり、今の大丸百貨店の礎を築いた下村家が崇敬、寄進援助してきた瀧尾神社である。まさに昇り龍の霊験があるといえる。
禅寺など寺院の法堂に描かれた平面の雲龍図も逃げ出してしまうほどのド迫力に圧倒されてしまった。
長さ8mの極彩色であった木彫りの龍が、天上から見下ろし睨む拝殿がある
本殿は貴船神社奥院御社旧殿が移築されたもので、干支の木彫りで装飾された社に祀られている祭神は大己貴命(おおむなちのみこと)で、大黒天(大国主命)や弁財天、毘沙門天の三神も共に祀られている。
強運の辰歳とすべく、あなただけのパワースポットとなる初詣に加えませんか。
十二支の兎から引き継ぐ年は「辰歳」である。その年の強い守り神となるのが「辰」とは心強いではないか。
「辰」は「漢書律暦志」に記され、「龍」とも、「竜」とも書くのだが、中国神話の神秘的な生物であった殷代(西暦前17〜11世紀)甲骨文字にある「竜」を後に宛てさせたようである。
その「竜」という文字を空想の珍獣のイメージに更に近づけようと考え、後世になって、荘厳かつ複雑にしたのが「龍」という文字だそうだ。
その空想の珍獣の特徴は、ラクダの頭・鹿の角・鬼の目・牛の耳・蛇の額・虎の手・鷹の爪・大蛇の腹・鯉のウロコ等、種々の動物の強力な部分を取り込んだ地上最強の動物と考えていたのである。
その龍は、十二支の中で唯一の空想された伝説上の動物なのである。
社寺に参詣すると、まず最初に手水舎で出会うことが多いのは龍である。
その口から水が落とされている。
仏教では、釈迦が生誕した際に二匹の龍が清浄水をそそぎ、成道(じょうどう)の時に七日間の降雨を身に覆(おお)って守護したと伝えられることから、水神として信仰されてきたのだろう。そして、法の雨、つまり仏法の教えを守護する神獣として考えられてきたからであろう。
中国風水に習い四神相応の地として平安遷都した折鴨川を青龍と見立て、旱魃(かんばつ)が続いた雨乞いでは龍神に食べ物や生け贄を捧げた歴史もあり、弘法大師の神泉苑の雨乞いでは善女龍王(清瀧権現)を呼び、雨を降らせたという逸話も残っている。
相国寺法堂で龍の鳴き声と言われる「鳴き龍」を聞いたことがある。
狩野光信筆の龍の天井画の下で手を打つと、「ばあぁーん」と響き、それは龍が鳴いている声だというのである。
古来より京都には龍神のパワーがあるといわれ、「龍神巡り」などというものもある。
石清水八幡宮〜東福寺〜泉涌寺〜神泉苑〜相国寺〜妙心寺〜天龍寺〜龍安寺〜貴船神社と、九つの寺社を巡り、南からはじめるのを昇り龍コースと呼び、北からはじめるのを下り龍コースと呼ばれている。
法堂の天井や襖に潜む龍を眺め、龍穴や湧き出る霊泉水と祭神に肖る通い旅となる。拝観日が限られているので、事前確認だけはお忘れなく。
他にも、知恩院・金戒光明寺などの楼門の天井に描かれた龍や、南禅寺、大徳寺、建仁寺の法堂の雲龍図を巡るのも良いが、公開時でないと見ることはできない。来年はいずれも同時公開が期待できそうだが、いかがだろうか。
しかし、見当たらないのは狛犬ならぬ狛龍なのである。
龍神さんを祀る八大龍王社(宮)はいくつかの寺院に見られるが、祭神であって神使いの霊獣ではない。
誠に結構なことではあるのだが、狛干支巡りを続ける小生には、無くては困り果てたことになるのである。
ところが、運よく知人からいい情報を得た。
「伏見稲荷のお山にある『伏見神宝(かんだから)神社』へ行ってみろ」、とのことだった。
お稲荷さんの裏参道を歩き手水舎で口を漱ぎ、狛狐とお見合いし、楼門から西の空を眺めると大きく青い空が開けていた。
参拝図を確認したが「伏見神宝神社」は記されていなかった。辿り着けるかと少々心配だったが、お山を歩くには絶好の日和で気分は楽になる。
まずは、本殿に参詣。摂社や末社への参拝は勘弁してもらい、千本鳥居を潜り奥社へと向かった。
奥社の山手だと聞いていたが、念のため、巫女さんに道順を尋ねた。
お山に続く鳥居を進めば1分位のところに右手に登る坂があり、小さな案内板が出ているとのことだった。
案の定標識があった。奥社を見下ろすように坂道が続く。150mを5分ほどかけて登ると、社号の石標が見えた。
「神宝宮」とある扁額を中心に、左右に見えるのはラクダのようだが、近づくと、間違いなく龍である。これぞ初めてみる「狛龍」である。
由緒書きによると、天照大御神を主祭神として、稲荷大神を配祠され、日本最古の神器「十種(とくさ)の神宝」を奉安している。
その授与品のなかに「十種神宝のお守」というものがあり、大極と小極を表わす二つの鏡、破邪顕正の勇気をあらわす一つの剣、邪気を払い英知導き魂を整える四つの玉、天地と宇宙並びに人体を浄めて神人一致への作用を結ぶ働きの三つの比礼(古代の襟巻き)の印からなる神秘なお守という。
「死れる人もかへりて生きなむ」との秘文(ひふみ)祝詞を奏上し、病める者への加持祈祷、魂を鎮め再生を祈る鎮魂に、崇敬者よりの篤い信仰があるという。
拝殿前の向かって右に天龍、左に地龍が建てられ、本殿向かって左に摂社「龍頭社(りゅうずしゃ)」があり、龍頭大神が祀られていた。山の地主神といわれ、かぐや姫(竹鳥物語)にも由来するご祭神とも記されている。
「龍の顎(あご)に五色に光る玉あり、それをとりて給へ」と、なよ竹のかぐや姫は、大伴の大納言に龍の玉を希望したそうである。
手狭な境内をぐるりと回ると、その境内は竹林に取り囲まれていた。
その情景は、竹取物語の原郷が深草であるとした文学者の研究に相応しい情景が確かに伝わってきた。
いみじくも、そこにはタケノコ石が祀られ、神の降臨を表わすかごとく、古代信仰さながらの竹の鳥居が建てられていた。
その場は稲荷山を遥拝する位置となっており、東山三十六峰の最南端、稲荷山の一の峰、二の峰、三の峰の西にあたり、笹に覆(おお)われた旧蹟丸山(伝法岡)と称する頂きである。
稲荷三峰から稲荷三座が下ろされ里宮に祀られる以前、神宝神社は円山の名の示すように、重要な祭礼をおこなう場所だったようだ。
狛龍を観て満たされた帰路、伏見街道を北へ東福寺駅まで歩いた。
巷の龍神巡りでは謳われない希少な龍が棲むところがあるからだ。
江戸中期に行商から大呉服商になり、今の大丸百貨店の礎を築いた下村家が崇敬、寄進援助してきた瀧尾神社である。まさに昇り龍の霊験があるといえる。
禅寺など寺院の法堂に描かれた平面の雲龍図も逃げ出してしまうほどのド迫力に圧倒されてしまった。
長さ8mの極彩色であった木彫りの龍が、天上から見下ろし睨む拝殿がある
本殿は貴船神社奥院御社旧殿が移築されたもので、干支の木彫りで装飾された社に祀られている祭神は大己貴命(おおむなちのみこと)で、大黒天(大国主命)や弁財天、毘沙門天の三神も共に祀られている。
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5430-111215-1月
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