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平城京の頃は花といえば梅であり、平安京で紫宸殿に左近の桜が登場して以来今日に到るまで、花といえば桜となった。
古今東西、日本で誰もが知る最も一般的な花であり、最も愛されている花であろう。桜の花は冬の枝木に蕾が膨らみ、大方は葉が出そろう前に花が咲き揃う。
そんな生命力の強さと潔い散り際に惹かれたのではないか。
その頃の桜といえば、淡く白い花弁の山桜や華やかな薄紅桃色の八重桜が一般的であったようだ。
ソメイヨシノや紅しだれは園芸種で、花弁の数や色、花のつけ方などを改良しようと、後世に交配され造りだされたものである。
つまり、現在の花見で人気の高いソメイヨシノや枝垂桜よりも、固有種である山桜や八重桜の方が永らくの間愛されてきた古い歴史があるということである。
いにしへの 奈良の都の 八重桜
けふ九重に にほひぬるかな (伊勢大輔)
枝垂桜が花を落とし葉桜になろうとしている頃、八重桜を代表するだろうこの歌が頭を過ぎる。
この歌は、一条院の世に、奈良の僧侶より宮中に届けられた八重桜の献上品を受け取る大役を、紫式部から譲られた新参女房で歌人伊勢大輔が、藤原道長から命ぜられ、御殿にて即興で詠んだものであるという。
直訳すると、「昔(いにしえ)に栄えた奈良の都に咲いていた八重桜が、今日宮中に咲き匂っていますよ。」となる。注釈などを参考に交え解説を編集すると。
「かつての平城京の栄華をしのばせ、盛りの春に豪勢に咲き誇ったという見事な八重桜だけど、今日は、平安の都の御所の庭で、今の帝の世を讃えるように、しっとりと重たげに露をふくんで、さらにいっそう美しく、めでたくも冴え冴えと、咲き誇っているようです。」と、こう意訳すれば大げさだろうか。
平安宮中の栄華ぶりを実に見事に褒め称えた歌である。
それまで京都には少なかったであろう八重桜が、俄かに流行りだしたことは容易に想像できる。
さて、そんなに見事な八重桜には、どこでお目にかかれるのだろう。
今まで京都の花といえば、県花のひとつが枝垂桜のせいか、ついつい枝垂桜ばかりに気を取られていた。
枝垂れた枝の風雪に折れにくいシンの強さが京都人気質に通じると、内心に、枝垂れでなければ京の桜にあらずと思い込んでいたかもしれない。
シダレザクラはエドヒガンザクラの改良種の桜であるから、古代より生息する八重桜の方が、都との縁からしても大先輩だったのである。
因みに、奈良の県花はナラノヤエザクラという八重桜であるが。
京都で八重桜といえば、遅咲きの花見で有名な名所仁和寺を誰もが上げる。
別名お多福桜とも呼ばれる「御室桜」は里桜で、天然記念物に指定されている。
例年、東堀川通沿いに白い八重桜が花開かせると「御室桜」を思い出し、「御室桜」の話が聞こえると、千本閻魔堂の「普賢象桜」や「二尊院普賢象」が気になりだす。これが八重桜を楽しむ小生の定石だった。
そうそう、東寺と六孫王神社の八重桜もあった。
枝垂れが葉桜となり、五重塔との背比べは目に鮮やかで、その足元で薄紅桃色のアクセントをつけているのが、東寺の八重桜である。
初夏に蓮の花が一面となる宝蔵のぐるりの堀に映す姿はいうに及ばず、広い境内の何ヶ所にも八重桜が漆黒の堂に色を添えている。
東寺に参詣した足で訪ねるのが、清和源氏の発祥の地で知られる六孫王神社である
。社地は、源経基の邸宅「八条亭」の跡地で、二の鳥居を超えたところの神龍池に架かる輪橋のところにできる八重桜のトンネルは秀逸である。
頭上は萌黄に、濃桃、薄桃、黄緑の重なる花房で覆われ、鬱金桜、御衣黄など桜の種類も豊富で、西陣の雨宝院を思わせる。
近くに居ながら気づかなかったのが、木屋町通二条を下がった「一の舟入」のところに咲く八重桜だった。
高瀬川に浮かぶ十石舟にソメイヨシノは毎年のように足を運んで、その景色に満悦しているのだが、八重桜に十石舟の高瀬川の図などは知りもせず、ソメイヨシノが散り始めれば一の舟入の桜は眼中になく、桜とは縁遠い場所となってしまっていたのである。
「大岩」で串揚げを食べた夜に、その八重桜の咲いているのに気づき、早速と、明朝には出かけてカメラに収める始末だった。
ソメイに勝る実に絵になる風景である。「灯台もと暗し」とはこんなことなのである。
八重桜を意識して市内を巡ると、こんなにも沢山の八重桜があったのかと驚く。
枝垂れ桜と混色されていたり、個人の邸宅にも植栽されているのに気づいた。
要するに、関心をもって見ていなかっただけのことなのである。
駆け巡りの中で、梅宮大社神苑の八重桜を独り占めで満喫させてもらえたのも印象に強く残る。
東神苑から北神苑に入ると、勾玉池までの散策路は、とりわけ八重桜の森のようである。ふさふさと花をつけた枝が頭上に伸び、手弱かに可憐な淡紅の花、ふっくらと華やかな薄紅桃色の花、いずれも俯くように下を向いて咲いている。
松月・大ちょうちん・大手まり・有明・楊貴妃・普賢象・黄桜・きりん・関山など二十種もあると聞いているが、俄かな記憶を頼りに見分けがつけられたのは五種がやっとであった。
東の平安神宮神苑が枝垂桜で咲き誇るなら、西の梅宮大社神苑は八重桜が咲き誇ってたのである。東の醍醐寺と西の仁和寺の対比のようである。
古くは、橘氏の氏神として山城国相楽郡に創建され、平城京遷都の折には光明皇后により奈良に遷座され、平安京遷都の折には檀林皇后により京の現在地に遷座された歴史を持つ梅宮大社。
主祭神四座の一座てある木花咲耶姫命(このはなのさくやびめ/御子酒解子神)は、木の花(桜の花、あるい梅の花)が咲くように美しい女性で、水の神であり、安産と造酒の神として祀られ信仰されてきた。更に、東神苑にある池は咲耶池(さくやいけ)と呼ばれている。
青空の下この神苑を回遊すれば、古代より八重桜が女性の象徴であったろうと、自ずから感じてくるのである。
八重桜の花言葉には、「しとやか」「善良な教育」「豊かな教養」と記されていた。
ソメイヨシノには「高貴、清純、精神愛・優れた美人」、しだれ桜には「優美・ごまかし」、そして国花でもあるヤマザクラは「純潔・高尚・淡白・美麗」と。
まだまだ探訪仕切れていないかもしれない。
しとやかな八重桜に好奇心を膨らませて、来年はしっかりと歩いてみたい。
造幣局の桜 (中川木材産業)
http://www.wood.co.jp/wood/sakura/index.htm
仁和寺
http://www.ninnaji.or.jp/cherry_tree.html
千本ゑんま堂
http://yenmado.jp/
東寺
http://www.toji.or.jp/
六孫王神社
http://www.rokunomiya.ecnet.jp/
梅宮大社
http://www.umenomiya.or.jp/
【参照リンクには、現在なくなったものがあるかもしれません。順次訂正してまいりますが、ご容赦ください。】
古今東西、日本で誰もが知る最も一般的な花であり、最も愛されている花であろう。桜の花は冬の枝木に蕾が膨らみ、大方は葉が出そろう前に花が咲き揃う。
そんな生命力の強さと潔い散り際に惹かれたのではないか。
その頃の桜といえば、淡く白い花弁の山桜や華やかな薄紅桃色の八重桜が一般的であったようだ。
ソメイヨシノや紅しだれは園芸種で、花弁の数や色、花のつけ方などを改良しようと、後世に交配され造りだされたものである。
つまり、現在の花見で人気の高いソメイヨシノや枝垂桜よりも、固有種である山桜や八重桜の方が永らくの間愛されてきた古い歴史があるということである。
いにしへの 奈良の都の 八重桜
けふ九重に にほひぬるかな (伊勢大輔)
枝垂桜が花を落とし葉桜になろうとしている頃、八重桜を代表するだろうこの歌が頭を過ぎる。
この歌は、一条院の世に、奈良の僧侶より宮中に届けられた八重桜の献上品を受け取る大役を、紫式部から譲られた新参女房で歌人伊勢大輔が、藤原道長から命ぜられ、御殿にて即興で詠んだものであるという。
直訳すると、「昔(いにしえ)に栄えた奈良の都に咲いていた八重桜が、今日宮中に咲き匂っていますよ。」となる。注釈などを参考に交え解説を編集すると。
「かつての平城京の栄華をしのばせ、盛りの春に豪勢に咲き誇ったという見事な八重桜だけど、今日は、平安の都の御所の庭で、今の帝の世を讃えるように、しっとりと重たげに露をふくんで、さらにいっそう美しく、めでたくも冴え冴えと、咲き誇っているようです。」と、こう意訳すれば大げさだろうか。
平安宮中の栄華ぶりを実に見事に褒め称えた歌である。
それまで京都には少なかったであろう八重桜が、俄かに流行りだしたことは容易に想像できる。
さて、そんなに見事な八重桜には、どこでお目にかかれるのだろう。
今まで京都の花といえば、県花のひとつが枝垂桜のせいか、ついつい枝垂桜ばかりに気を取られていた。
枝垂れた枝の風雪に折れにくいシンの強さが京都人気質に通じると、内心に、枝垂れでなければ京の桜にあらずと思い込んでいたかもしれない。
シダレザクラはエドヒガンザクラの改良種の桜であるから、古代より生息する八重桜の方が、都との縁からしても大先輩だったのである。
因みに、奈良の県花はナラノヤエザクラという八重桜であるが。
京都で八重桜といえば、遅咲きの花見で有名な名所仁和寺を誰もが上げる。
別名お多福桜とも呼ばれる「御室桜」は里桜で、天然記念物に指定されている。
例年、東堀川通沿いに白い八重桜が花開かせると「御室桜」を思い出し、「御室桜」の話が聞こえると、千本閻魔堂の「普賢象桜」や「二尊院普賢象」が気になりだす。これが八重桜を楽しむ小生の定石だった。
そうそう、東寺と六孫王神社の八重桜もあった。
枝垂れが葉桜となり、五重塔との背比べは目に鮮やかで、その足元で薄紅桃色のアクセントをつけているのが、東寺の八重桜である。
初夏に蓮の花が一面となる宝蔵のぐるりの堀に映す姿はいうに及ばず、広い境内の何ヶ所にも八重桜が漆黒の堂に色を添えている。
東寺に参詣した足で訪ねるのが、清和源氏の発祥の地で知られる六孫王神社である
。社地は、源経基の邸宅「八条亭」の跡地で、二の鳥居を超えたところの神龍池に架かる輪橋のところにできる八重桜のトンネルは秀逸である。
頭上は萌黄に、濃桃、薄桃、黄緑の重なる花房で覆われ、鬱金桜、御衣黄など桜の種類も豊富で、西陣の雨宝院を思わせる。
近くに居ながら気づかなかったのが、木屋町通二条を下がった「一の舟入」のところに咲く八重桜だった。
高瀬川に浮かぶ十石舟にソメイヨシノは毎年のように足を運んで、その景色に満悦しているのだが、八重桜に十石舟の高瀬川の図などは知りもせず、ソメイヨシノが散り始めれば一の舟入の桜は眼中になく、桜とは縁遠い場所となってしまっていたのである。
「大岩」で串揚げを食べた夜に、その八重桜の咲いているのに気づき、早速と、明朝には出かけてカメラに収める始末だった。
ソメイに勝る実に絵になる風景である。「灯台もと暗し」とはこんなことなのである。
八重桜を意識して市内を巡ると、こんなにも沢山の八重桜があったのかと驚く。
枝垂れ桜と混色されていたり、個人の邸宅にも植栽されているのに気づいた。
要するに、関心をもって見ていなかっただけのことなのである。
駆け巡りの中で、梅宮大社神苑の八重桜を独り占めで満喫させてもらえたのも印象に強く残る。
東神苑から北神苑に入ると、勾玉池までの散策路は、とりわけ八重桜の森のようである。ふさふさと花をつけた枝が頭上に伸び、手弱かに可憐な淡紅の花、ふっくらと華やかな薄紅桃色の花、いずれも俯くように下を向いて咲いている。
松月・大ちょうちん・大手まり・有明・楊貴妃・普賢象・黄桜・きりん・関山など二十種もあると聞いているが、俄かな記憶を頼りに見分けがつけられたのは五種がやっとであった。
東の平安神宮神苑が枝垂桜で咲き誇るなら、西の梅宮大社神苑は八重桜が咲き誇ってたのである。東の醍醐寺と西の仁和寺の対比のようである。
古くは、橘氏の氏神として山城国相楽郡に創建され、平城京遷都の折には光明皇后により奈良に遷座され、平安京遷都の折には檀林皇后により京の現在地に遷座された歴史を持つ梅宮大社。
主祭神四座の一座てある木花咲耶姫命(このはなのさくやびめ/御子酒解子神)は、木の花(桜の花、あるい梅の花)が咲くように美しい女性で、水の神であり、安産と造酒の神として祀られ信仰されてきた。更に、東神苑にある池は咲耶池(さくやいけ)と呼ばれている。
青空の下この神苑を回遊すれば、古代より八重桜が女性の象徴であったろうと、自ずから感じてくるのである。
八重桜の花言葉には、「しとやか」「善良な教育」「豊かな教養」と記されていた。
ソメイヨシノには「高貴、清純、精神愛・優れた美人」、しだれ桜には「優美・ごまかし」、そして国花でもあるヤマザクラは「純潔・高尚・淡白・美麗」と。
まだまだ探訪仕切れていないかもしれない。
しとやかな八重桜に好奇心を膨らませて、来年はしっかりと歩いてみたい。
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http://www.ninnaji.or.jp/cherry_tree.html
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東寺
http://www.toji.or.jp/
六孫王神社
http://www.rokunomiya.ecnet.jp/
梅宮大社
http://www.umenomiya.or.jp/
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