千枚漬生みの親とは

京漬物 / 千枚漬 by 五所光一郎

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今年のかぶらはきめが細かく、歯触りが抜群で、最高の千枚漬にあがっている。
年末年始に耳にした言葉だ。
11月も初旬の頃、寒波を控えていた畑は、かぶらの収穫の季節の到来を感じさせていた。
12月の到来と今年の寒気は、更に一層かぶらの旨味を増長させたようだ。

根菜類は季節の霜を被ることにより、益々実が引き締まり、甘味を増して来るのである。
つまり冬が厳しいほど、かぶらに味が乗り、千枚漬はより美味となる。
千枚漬は、長く保存するための漬物とは違い、旬の「聖護院かぶら」をその冬までに漬け込み、そのシーズンに食べるという贅沢な漬物である。その賞味期間は樽出し3日から7日間位を常識としている。まさにその素材の善し悪しが味に影響するのだ。

そもそも千枚漬はかぶらを薄くスライスして漬けたものであるが、一枚の直径が大きいものほど高級である。それはかぶらの芯に近いやわらかい部分まで外皮を分厚くむくため、商品となる真ん中の部分を考えると、小かぶより大かぶとなり、日本一大きいとされる「聖護院かぶら」に限定される。
京都に出回っている「聖護院かぶら」の品種は現在5種あるが、なかなか手に入らない品種は「味太鼓」で、他種との比較で数段甘く柔らかいという。

さて、千枚漬が世に出た時、一個の「聖護院かぶら」を鉋(かんな)で手切りすると、そのスライスは20枚取れ、50かぶで4斗(とう)樽のひと樽が漬けられていた。ひと樽で丁度1000枚あったところから、その名を千枚漬と名づけられたようだ。

その千枚漬の一枚の厚みは、なんと2〜3mmである。
そして、下漬けが終わったかぶらは、余分な水分が絞れ、厚さは1から1.5ミリほどになっている。漬物業界も機械化が進み、鉋(かんな)でのこの作業ができる職人さんはもう数えるほどしかいないと聞く。

次に下漬けだが、樽に本漬け同様に一枚一枚を丁寧に、習わしの方向に並べ置く。
「最初しっかり」に従い、天然塩を加減し重石で約3日間漬け込む。
このとき「傷」や「す」で白さを邪魔するものものは省き、細かく切り、重石の下に千枚漬を覆うように置く。これは後に「切千枚」となり、本当に白い押しあとのない塩漬が出来上がる。

そして塩漬された千枚漬を取り出し、別の樽で本漬が始まるのだ。白さを大切にするため、極上の利尻昆布は入念に洗い流される。千枚漬を一層並べ、次にその昆布をと、交互に敷き詰められていく。その都度、各家秘伝の特製だしが注がれてゆく。下漬けより軽めの重石でもって二晩置くと出来上がりである。

出汁は昆布・砂糖・酢などの調味料の配合度合いで、昆布のもつ天然の旨味とねばりが生かされ、味を作る。砂糖など使わず自然発酵の甘さに拘るところもある。このあたりの甘さ加減は好みを見つけるまで食べ比べてもらうしか手はない。

最後に、千枚漬を編み出した原点となる店は「麩屋町通四条上る 千枚漬本家・京つけもの 大藤(たいとう)」である。今も創業時の漬け方を頑なに守っていると聞く。
慶応元年(1864)、孝明天皇宮中大膳寮に仕えていた大藤藤三郎は、縄手三条下ルに店を構えていた漬物屋の尾花川漬にヒントを得、聖護院の里のかぶらで漬物をつくり、天皇のお褒めを賜った。
明治維新とともに職を退いた大藤藤三郎は、「大藤」ののれんを掲げその漬物を売り出した。
みやこやぶり」と呼ばれ、市中で好まれて一世風靡したという。
その確かな美味は、明治23年に京都で開催された全国博覧会で全国名物番付けに入選した。
以来、京都の三大漬物のひとつと未だに評されている。

蕪(かぶ)が糸を引いているのは大丈夫か、なんて無粋なことを言わないで貰いたい。
昆布が糸引く頃が食べごろで、一番おいしい時なのである。
毎月21日は『漬物の日』である。ともに食さん。


京を食べる (京都新聞)
http://www.kyoto-np.co.jp/kp/shoku/04.html
亀岡の京野菜
http://www.kyoto-be.ne.jp/kameoka-hs/hp/okada/kuon/7yasai.pdf
かぶの千枚漬けの作り方 (男の趣肴ホームページ)
http://www.ajiwai.com/otoko/make/senn_fr.htm
千枚漬本家 大藤
http://www.senmaiduke.com/
村上重本店 (京都新聞)
http://kyoto-np.co.jp/kp/rensai/shoku/041124.html


【参照リンクには、現在なくなったものがあるかもしれません。順次訂正してまいりますが、ご容赦ください。】
5011-060221-冬

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