全国各地からの見物客の衆目を集める山鉾巡行、沿道から拍手が沸き起こる辻回し、祇園囃子の音に、豪華な美術品なる懸装品、ハレの日のこれらを誇りに思わない京都人はいない。
日本三大祭のひとつと称されれば、鉾町や氏子町の住人であろうがなかろうが、京都が誇る祭りとして自慢したくなるのが人情である。
では、何をどう自慢するのだろうか。
祇園祭神輿渡御と山鉾巡行の日まで、数えるところあと7日。7月10日 朝、鉾建てが始まった。
鉾をこさえる日である。つまり、脚光を浴びる鉾を組み上げていく初日である。
一基だけでも1日では到底できない。懸装品を飾りつけ、曳き初めを行うまでに3日はかかるのである。
その山鉾が釘を一本も使わずに組み上げられていることは良く知られている。
しかし、あの重量(推計12t)であの高さ(17〜25m)のものが、辻を直角に曲がり都大路を巡行するのに耐えられているから不思議である。軋んだ音をさせ、揺れながら巡行している姿の懸装品の中の骨組みを見て頷いた。
その使われているものは荒縄1本だけであるが、木々に荒縄を塗りこむように巻き上げ、柱と壁を作るような仕事がされている。
しかもその荒縄は織り成すようで、結びあげるような細工で、鑑賞に値する文様と造形を描いている。間違いなく荒縄の芸術である。
工学的技術価値に留まらない、懸装品に匹敵する美術品価値があると、小生は感じ、評価するものである。
その鉾建てを見物すべく、10日朝、室町四条交差点に出向いた。ここを祇園祭の時期には、「鉾の辻」と呼んでいる。その場所から東に函谷鉾、西に月鉾、南に鶏鉾、北に菊水鉾と、東西南北四方どちらを向いても鉾がすぐ見えるため、そのように呼ばれる。
鉾町には保存会の法被を着た人や、鉾建てを行うヘルメット姿の作事方(さくじがた)が、会所の蔵から道路に鉾の部品を段取り良く運び出していた。
鉾の辻から東へ向かい、長刀鉾を目指した。こちらは、もう胴組みが始まっていた。
初日は、鉾の土台となる胴と真木と鉾先の部分を各々に組み上げ、骨組みを仕上げておくのである。胴組み作業の見所は、やはり「縄がらみ」の編み上げ手法である。作事方の若衆に聞くと、縄がらみに使われる荒縄の長さの合計は5Kmと言う。
先ほど縄の長さを教えてくれた作業方の若衆が叱られている。
「去年いうたこと覚えとらへんのか、そこは紙縒り(こより)にして、通して結ぶんや」
嬉しい限りである。率直に叱る親方、素直に聞き学ぶ若衆。こうした黒子の存在があり、連綿と受け継がれていく鉾建てがあってこそ、三大祭のひとつとして成り立っていることが分かる。
まだあどけなさが残る日焼けした顔のヘルメットの下の若衆の額には、玉のような汗が噴出していた。
台座となる胴組みの翌朝、いよいよ真木の取り付け当りである。
組まれた胴に長い梃子(てこ)が付けられ、直角に横倒しにされた。地面ついていた四本の足の底が見える。真木の取り付けがされた正午前、いよいよ元に戻されるクライマックスである。
地面近くにある長刀の先が直角に立ち上がるまで、ロープで徐々に引き上げられ、鉾先が天に向かうまで慎重に執り行われた。これが鉾起こしである。
鉾が立ち上がると、車輪を支える樫の木の石持(いしもち)をはめ込み、午後には、上部の屋台部分が組み立てられる。石持や車軸、その足周りには、更に入念に縄がらみが施されていた。
屋根がのると鉾らしい体となり、鉾建てもひと段落のムードとなる。
3日目、いよいよ車輪が取り付けられ、前掛け胴掛け、見送りなど懸装品が取り付けられて、装いが整う。誰もがいつも目にする鉾の姿である。
晴れ着をつけた鉾のハレ姿をご覧になった翌年は、素の骨組みを、裸の鉾をご覧いただきたい。そこには祇園祭を支える黒子の息遣いがある。
京都祇園祭(京都・祇園祭ボランティア21事務局)
http://www.gionmatsuri.jp/
祇園祭特集(京都新聞)
http://www.kyoto-np.co.jp/kp/koto/gion/gion.html
【参照リンクには、現在なくなったものがあるかもしれません。順次訂正してまいりますが、ご容赦ください。】
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