新年以外には販売してもらっては困る京菓子

京菓子 花びら餅(葩餅) by 五所光一郎

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お年賀に、今年も「花びら餅」をいただいた。
正月だからこそ頂ける伝統の京生菓子である。600年以上もの間、おせち料理の一つとして、宮中や神社で作り続けられている「菱はなびら」に由来する菓子である。

このお年賀をいただくと、毎年思い出す。
この餅の中から流れ出るとろりとした白味噌の甘さに不思議さを感じ、取り憑かれ、シャキッとした牛蒡(ごぼう)の歯ざわりを嫌い、取り出して食べた幼少の頃を。

母の催す初釜が終わり、次の月釜やお茶事ではもう食べることができない。そう知ってから、尚更に愛おしさが増幅したものである。一年経たないと二度とこの味に遭遇できなかったからである。
その「花びら餅」が、京都を代表するお正月だけの生菓子であることを知ったのは、二十歳前だったろうか。


花びら餅は、丸く、滑らかで平らな白餅(餅皮)と、小豆汁で薄紅色に染められた薄い菱形の餅を重ね、照りのない薄黄味がかった白味噌餡を置き、その上に薄昆布色のふくさ牛蒡を2本置いて、二つ折りにされている。
折られて半円形になった白餅皮の両端からは、甘炊きのふくさ牛蒡が飛び出している妙な姿である。
昨今は餅代わりに求肥(りゅうひ)が使われているものもある。中の菱餅が、外包みの白餅皮の上から、ほのかな赤紫色に透けて見えるのもどこか艶かしい。

それを口に入れると、羽二重のようにふんわりとしていて薄甘い。続けさまに求肥(餅皮)が破れる。すると、白味噌の香りと甘味が、堰を切ったかの様に一気に広がる。
餡と餅が重なり合うもっちりとした弾力と、小気味良く切れる歯触りのふくさ牛蒡とのハーモニーである。蜜漬けされた牛蒡はシャキシャキと音を立て、実にスッキリとしている。幼少の頃、嫌っていたはずなのに、今は大好物となっている。


「御所では、このあんこさんを お雑煮の代わりにされてはったんや」と、祖母の話にあった。

近頃は、果物や野菜も年中いただけ、季節感や旬を感じることが少なくなった。おせち料理についても然りで、そうならば小生は、お正月は花びら餅でと、めぐる季節を味わって見ることにしたい。

四季折々を楽しむ生活文化こそが、実に「京都らしい」のではないだろうか。

花びら餅の初もんというと、裏千家十一代玄々斎家元が、御所より「菱はなびら」を拝領し、明治時代中頃に老舗和菓子屋「川端道喜(下鴨本通北山通西南角)」が茶菓子として作ったものだと聞き及ぶ。

新年以外には販売してもらっては困る京菓子である。


※菱葩【ひしはなびら】
:宮中の正月料理の一つ。平安時代の新年の「歯固めの儀式(長寿を願って猪、
大根、押鮎などを食べる儀式)」を簡略化したもので、平安朝の正月の儀式に
使われていた。「宮中雑煮」「包み雑煮」とも呼ばれ、現在も宮中おせち料理
の一つである。

ゴボウは押鮎を表わし、餅と味噌餡には雑煮の意味が込められている。鮎は
年魚と書き、年始に用いられ、押年魚は鮨鮎の尾頭を切っ取ったもの。


※求肥【りゅうひ・ぎゅうひ】
:こねた白玉粉を蒸し、砂糖・水飴を加え、火にかけて練りかためた菓子。
柔らかく弾力がある。もとは「牛皮」とも書いた。



正月菓子  花びら餅の製造風景 (甘春堂)
http://www.kanshundo.co.jp/museum/make04/01.htm

おいしさ さ・え・ら (森下典子エッセイ)
http://www.kajiwara.co.jp/saela/0401-1.htm

【参照リンクには、現在なくなったものがあるかもしれません。順次訂正してまいりますが、ご容赦ください。】
5179-050111-1月

関連歳時/文化
正月
菱はなびら
ふくさ牛蒡

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