「『都湯葉』なんておもんないなぁ」。足繁く通う料理屋「北郎」の主人にこう進言した当代きっての喜劇俳優・藤山寛美氏は、誕生間もない土産用の佃煮を「お豆の旅」の名に改めさせた。その佳品に寄せた句をはじめ、暖簾、団扇など、彼がこの店に遺した賛辞の跡は、美味のみを賞して贈られたものではない。「義理人情の厚さゆえに苛まれたトラブル」から身を匿ってくれた一家への恩義の印であり、「芸の肥し」を培わせてくれた店への感謝の意でもある。「僕の不愉快そうな表情やら、相席の世間話をその間合いに至るまでよう観察してはった」生まれながらの役者魂を、カウンターの一席で常にほとばしらせていたという。喜劇の中に潜ませる彼一流のペーソスには、この店の「味」が加えられていたのかもしれない。「立ち居振舞いから性格まで先生にそっくり」な娘の直美さんが今日通うのも、父が時折持ち帰ってきた「お豆の旅」と、偉大なる「藤山寛美」の面影を求めてのことだろう。
創業明治45年の「北郎」三代目・北村元一さんは、他店や東京での修行を経た後、野菜のにぎり鮨などの創作性を取り入れた京料理に心血を注いできた。メニューは12000円〜のコースのみ
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