祖父の代より続く南禅寺御用達豆腐は確かに美味だ。けれど胡坐はかかない。服部一夫氏はそう考えた。「職人やから」と本人も笑う気質が物を言ったのが「おぼろ豆腐」だ。大豆は旨味を余韻に残すべく糖度の高いものを選び抜いた。製造は困難になるが味優先だ。次に目がむけられたのは唯一の添加物、消泡剤。工程中、必然的に大量発生する豆乳の泡を消す、目的はただそれだけ。「いらんもんはないほうがええ」と、火傷もしたし時間も掛かったが完成にこぎ着けた。そして今、さらに先を見る服部氏の視線に頼もしさを覚えつつ、京豆腐の新展開に舌鼓を打つのだ。
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