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桜を求めて京都市内が混雑の最中、宇治を目指した。
「宇治川さくらまつり」の日であったので、渋滞に多少の躊躇いはあった。
しかし、天ヶ瀬ダム近くに駐車場が用意され、平等院までのシャトルバスが運行されることを知ったので、勢いづいた。
おけいはんにするか、宇治川ラインをドライブするかの選択はいとも簡単に決まった。
天ヶ瀬に車を駐車し、バスで約2キロを下った。
まず目指すのは宇治川中ノ島である。中ノ島は「塔の島」と「橘島」の二つの中洲からできている。その中ノ島には橘橋と朝霧橋と喜撰橋が架かっている。この橋を使って宇治川を中ノ島経由で往来できるのである。
川に沿って西側にあじろぎの道、東側に朝霧通りがあり、宇治橋を使って回遊すると、半日たっぷりと桜を楽しみ過ごせる散策コースである。平等院や源氏物語ミュージアムを訪ねていれば一日コースとなる。
平等院が初めてでなければ、桜が終わったあとに、つつじや藤を観賞しながら訪れる方が良い。境内に桜はなくはないが、朝霧橋の橋上から中ノ島の桜越しに眺めたり、境内沿いの突堤から覗き込む鳳凰堂の姿で十分であると小生は思っている。
平等院南門を横目に塔の島の方に歩き出した。
「浮島十三重石塔」の上部が喜撰橋の朱塗りの欄干の上に見え出した。逸る気持ちが足早にさせる。喜撰橋の袂にある船着場の船頭さんに乗合船の事を確認すると、折から貸切船の予約がいっぱいで、早くても昼過ぎの一時半にならないと、一般の乗合船は出せないと言う。
船上で食事をしながらの花見は予約なしでは叶わなかった。仕方なく、その時間までは中ノ島を歩くことにした。
喜撰橋を渡ると、「浮島十三重石塔」の周辺には陶器市さながらに処狭しと窯元の屋台が並んでいる。それもそのはず、会場内の案内看板を見ると「宇治川さくらまつり」と「炭山陶器まつり」と併記されていた。
炭山陶器まつりは、宇治の炭山在住の窯元が集まって開く「京焼・清水焼」だけの陶器市で、地元炭山の蔵ざらえとなることから、花見客にとっては掘り出し物を見つけるチャンスでもある。
川べりにはソメイヨシノが満開で、対岸の桜も満喫できるため、シートを広げた花見客の宴が始まっている。宇治川の流れは速く、山裾の桜に仙徳山や朝日山の中腹に咲く桜、なだらかな稜線に木々の芽吹きが芽に優しく、春の陽射しを受けながらの中ノ島は家族連れの憩いの場に最適である。
橘島の枝垂桜「宇治川しだれ」に向かうには、中ノ島の架け橋を渡ればよい。渡った左手には大きな公衆トイレが用意されているから安心だ。
「宇治川しだれ」の南には特設ステージが設けられ、「鵜飼ショー」や「宇治田楽」など多彩なプログラムが終日催されていた。島内にはその模様が放送されていて賑わしく、おまつり気分を膨らませている。
小生は、対岸の茅葺屋根に桜の光景に目を休めたり、宇治名産品のテントを覗きつつ茶だんごや抹茶アイスの買い食いをしながら、宇治川にせり出す桜の花々を楽しませてもらった。一片の花びらも散らしていない満開見頃の花は艶やかで華やかである。旬のものはまことに良い。
乗合船の出航のアナウンスが聞こえた。「花見船」に乗らない手はない。
使いふるされた「風光明媚」という四字熟語が新鮮に感じるひと時である。
岡崎疎水の十石舟、伏見の酒蔵を巡る十石舟や三十石船、保津川下りの船、どれにも劣らぬ宇治の風情があった。枝垂桜やソメイヨシノばかりでない、山桜やボタン桜も手に取るように見ることができた。
下船したあと朝霧橋の階段を上がって振り向くと、桜に包まれた甍に鳳凰が気高く立ちどまっているではないか。平等院鳳凰堂の屋根であった。視線を下にやると、宇治川の急流に桜並木が浮かんで見えた。
これから向かうのは、宇治の氏神「宇治神社」に、その奥に続く早蕨(さわらび)の道を行けば世界遺産登録の「宇治上神社」である。参道の右手は宇治発電所の敷地であるが、伸び伸びと天に枝を張ったソメイヨシノがある。源氏物語宇治十帖の「早蕨」に登場する「早蕨之古蹟」の石碑の左上あたりである。じっくりと眺めてもらえるに値する大木である。
「宇治上神社」を更に左手に、「総角(あげまき)古蹟」へと早蕨の道を進み、九十九折れを登れば仙徳山の展望台がある。総角を通り越し真っ直ぐゆくと、「源氏物語ミュージアム」に辿り着く。この辺りは「ヒカルゲンジ」と言う名の椿が続けさまに植えられている。
源氏物語を歩く旅ではないので仔細は省略し、宇治イラストマップにはない桜マークをつけたい場所をご案内しておきたい。
真言宗智山派の「朝日山恵心院」と真言律宗の「雨寶山橋寺放生院常光寺」を是非訪ねられることである。きっと通の桜見を堪能されるであろう。宇治川を見下ろす高台の見晴らしと、境内の何気ない花々に癒されるからである。
恵心院は龍泉寺と呼ばれていた弘法大師創建の寺院で、平安時代中期に「往生要集」を著した比叡山横川(よかわ)の恵心僧都源信(えしんそうずげんしん)の再興によって開かれた古刹である。
朝霧橋袂の福寿園の左の坂道を少し上ると、桜の園のように枝垂れた桜を冠する瀟洒な山門が待ち構えている。一歩足を踏み入れると真紅のボケの花が、本堂の前に。境内奥には野趣溢れる花畑が広がり、頭上には枝垂桜が咲き乱れている。その枝垂桜の枝下に黄梅が咲いていたが感嘆の光景であった。
その枝垂桜のひとつは「三春滝桜」の子木である。「三春滝桜」といえば、日本三大巨桜のひとつに挙げられる樹齢千年以上の紅枝垂桜の古木で、天然記念物である。
この風情の中に身を置いていると、眼下の中ノ島の賑わいが嘘のようである。
その静けさは橋寺も同様である。
朝霧通りの茶業組合を経て宇治橋に向かう途中、右手に山門が建ち石段が続く。山門前にすみれが処狭しと咲いていた。山門の間から青空と桜の花が、少しだけ顔を覗かせているのに気づく人はいない。
叩いて見よう。ソメイヨシノの古木二本が本堂前の門のように立ち並んでいる。力強い枝振り、ふさふさの花盛りである。
守り本尊となる如来菩薩の銅像も参拝を待っていたようである。
橋寺は宇治橋の守り寺であった。その宇治橋を渡り、急流に浮かぶ中ノ島と桜に別れを告げ、シャトルバスに乗り込んだ。
またもや茶団子を頬張り、小生ご満悦の一日である。
「宇治川さくらまつり」の日であったので、渋滞に多少の躊躇いはあった。
しかし、天ヶ瀬ダム近くに駐車場が用意され、平等院までのシャトルバスが運行されることを知ったので、勢いづいた。
おけいはんにするか、宇治川ラインをドライブするかの選択はいとも簡単に決まった。
天ヶ瀬に車を駐車し、バスで約2キロを下った。
まず目指すのは宇治川中ノ島である。中ノ島は「塔の島」と「橘島」の二つの中洲からできている。その中ノ島には橘橋と朝霧橋と喜撰橋が架かっている。この橋を使って宇治川を中ノ島経由で往来できるのである。
川に沿って西側にあじろぎの道、東側に朝霧通りがあり、宇治橋を使って回遊すると、半日たっぷりと桜を楽しみ過ごせる散策コースである。平等院や源氏物語ミュージアムを訪ねていれば一日コースとなる。
平等院が初めてでなければ、桜が終わったあとに、つつじや藤を観賞しながら訪れる方が良い。境内に桜はなくはないが、朝霧橋の橋上から中ノ島の桜越しに眺めたり、境内沿いの突堤から覗き込む鳳凰堂の姿で十分であると小生は思っている。
平等院南門を横目に塔の島の方に歩き出した。
「浮島十三重石塔」の上部が喜撰橋の朱塗りの欄干の上に見え出した。逸る気持ちが足早にさせる。喜撰橋の袂にある船着場の船頭さんに乗合船の事を確認すると、折から貸切船の予約がいっぱいで、早くても昼過ぎの一時半にならないと、一般の乗合船は出せないと言う。
船上で食事をしながらの花見は予約なしでは叶わなかった。仕方なく、その時間までは中ノ島を歩くことにした。
喜撰橋を渡ると、「浮島十三重石塔」の周辺には陶器市さながらに処狭しと窯元の屋台が並んでいる。それもそのはず、会場内の案内看板を見ると「宇治川さくらまつり」と「炭山陶器まつり」と併記されていた。
炭山陶器まつりは、宇治の炭山在住の窯元が集まって開く「京焼・清水焼」だけの陶器市で、地元炭山の蔵ざらえとなることから、花見客にとっては掘り出し物を見つけるチャンスでもある。
川べりにはソメイヨシノが満開で、対岸の桜も満喫できるため、シートを広げた花見客の宴が始まっている。宇治川の流れは速く、山裾の桜に仙徳山や朝日山の中腹に咲く桜、なだらかな稜線に木々の芽吹きが芽に優しく、春の陽射しを受けながらの中ノ島は家族連れの憩いの場に最適である。
橘島の枝垂桜「宇治川しだれ」に向かうには、中ノ島の架け橋を渡ればよい。渡った左手には大きな公衆トイレが用意されているから安心だ。
「宇治川しだれ」の南には特設ステージが設けられ、「鵜飼ショー」や「宇治田楽」など多彩なプログラムが終日催されていた。島内にはその模様が放送されていて賑わしく、おまつり気分を膨らませている。
小生は、対岸の茅葺屋根に桜の光景に目を休めたり、宇治名産品のテントを覗きつつ茶だんごや抹茶アイスの買い食いをしながら、宇治川にせり出す桜の花々を楽しませてもらった。一片の花びらも散らしていない満開見頃の花は艶やかで華やかである。旬のものはまことに良い。
乗合船の出航のアナウンスが聞こえた。「花見船」に乗らない手はない。
使いふるされた「風光明媚」という四字熟語が新鮮に感じるひと時である。
岡崎疎水の十石舟、伏見の酒蔵を巡る十石舟や三十石船、保津川下りの船、どれにも劣らぬ宇治の風情があった。枝垂桜やソメイヨシノばかりでない、山桜やボタン桜も手に取るように見ることができた。
下船したあと朝霧橋の階段を上がって振り向くと、桜に包まれた甍に鳳凰が気高く立ちどまっているではないか。平等院鳳凰堂の屋根であった。視線を下にやると、宇治川の急流に桜並木が浮かんで見えた。
これから向かうのは、宇治の氏神「宇治神社」に、その奥に続く早蕨(さわらび)の道を行けば世界遺産登録の「宇治上神社」である。参道の右手は宇治発電所の敷地であるが、伸び伸びと天に枝を張ったソメイヨシノがある。源氏物語宇治十帖の「早蕨」に登場する「早蕨之古蹟」の石碑の左上あたりである。じっくりと眺めてもらえるに値する大木である。
「宇治上神社」を更に左手に、「総角(あげまき)古蹟」へと早蕨の道を進み、九十九折れを登れば仙徳山の展望台がある。総角を通り越し真っ直ぐゆくと、「源氏物語ミュージアム」に辿り着く。この辺りは「ヒカルゲンジ」と言う名の椿が続けさまに植えられている。
源氏物語を歩く旅ではないので仔細は省略し、宇治イラストマップにはない桜マークをつけたい場所をご案内しておきたい。
真言宗智山派の「朝日山恵心院」と真言律宗の「雨寶山橋寺放生院常光寺」を是非訪ねられることである。きっと通の桜見を堪能されるであろう。宇治川を見下ろす高台の見晴らしと、境内の何気ない花々に癒されるからである。
恵心院は龍泉寺と呼ばれていた弘法大師創建の寺院で、平安時代中期に「往生要集」を著した比叡山横川(よかわ)の恵心僧都源信(えしんそうずげんしん)の再興によって開かれた古刹である。
朝霧橋袂の福寿園の左の坂道を少し上ると、桜の園のように枝垂れた桜を冠する瀟洒な山門が待ち構えている。一歩足を踏み入れると真紅のボケの花が、本堂の前に。境内奥には野趣溢れる花畑が広がり、頭上には枝垂桜が咲き乱れている。その枝垂桜の枝下に黄梅が咲いていたが感嘆の光景であった。
その枝垂桜のひとつは「三春滝桜」の子木である。「三春滝桜」といえば、日本三大巨桜のひとつに挙げられる樹齢千年以上の紅枝垂桜の古木で、天然記念物である。
この風情の中に身を置いていると、眼下の中ノ島の賑わいが嘘のようである。
その静けさは橋寺も同様である。
朝霧通りの茶業組合を経て宇治橋に向かう途中、右手に山門が建ち石段が続く。山門前にすみれが処狭しと咲いていた。山門の間から青空と桜の花が、少しだけ顔を覗かせているのに気づく人はいない。
叩いて見よう。ソメイヨシノの古木二本が本堂前の門のように立ち並んでいる。力強い枝振り、ふさふさの花盛りである。
守り本尊となる如来菩薩の銅像も参拝を待っていたようである。
橋寺は宇治橋の守り寺であった。その宇治橋を渡り、急流に浮かぶ中ノ島と桜に別れを告げ、シャトルバスに乗り込んだ。
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5307-100406-4月
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