紅しだれに託した美と京の精神

平安神宮 紅しだれコンサート by 五所光一郎

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紅しだれといえば、「紅しだれコンサート」イメージする人も多くなった。
今年で23回目になるのだが、平安建都1200年記念を祝った1994年以降に、「JR東海のそうだ京都いこう」のキャンペーンと相まって俄かに注目を浴び、恒例のイベント開催は観光客動員にも拍車をかけ、すっかり定着し、京都の風物詩と冠されるようになった。

今年は東北大震災の惨事の直後とあって、開催か自粛中止かが気になるところであったが、災害復興支援に向けての義援金として収益を寄付する目的を掲げ、開催の運びとなった。

まことに喜ばしいことである。日常の中で、一人ひとりができることを行うことが、長期間かかるであろう復興をなさしめるのであろう。
亡くなられた方の無念に哀悼の意を捧げ、残されたものがこれから為すべきことを旨に刻む機会にし、復興へのエールを送って貰いたい。

今回の神苑のライトアップは、節電でライトアップの光量を落とすらしい。
光量を落とす理由が小生には少々理解しがたいのだが、例年の圧倒されるほどの豪華さと煌びやかさが抑えられ、更に幽玄な趣に包まれるものなら、かえって良いことである。

本来なら、この機会に発電の方法や、光源のあり方を考え直したライトアップに転換して貰いたいところである。それが平安神宮神苑に相応しい夜桜と栖鳳池での音曲の夕べだと思っている。
コンセプトを見直し深めるいい時期かも知れない。

そして、入場者数の制限や安全管理のあり方も、この機会に考え直してみる必要はないだろうか。
従来のように、神苑の狭い通路にすし詰めにいれて、栖鳳池周辺が通勤ラッシュの電車内と同じような状態は好ましくないと思う。
更に、その中に車椅子の観客が同じ場所にいるのはいかがなものなのだろうか。

大極殿白虎楼蒼龍楼の照らし出される姿も、神苑の八重紅しだれ桜の観賞も、尚美館(貴賓館)でのLiveも全て気に入っているばかりか、これからも続けて開催して貰いたいと思っている。
だからこそ、以後中止となるような事故が起こらないように願い、あえて苦言を呈している。

紅しだれコンサートに出かける度に小生はそう感じてる。いずれ将棋倒しの事故が起こるだろうと想定しているのだ。後に想定外の出来事だったという弁は聞かせて欲しくないので記しておきたい。

紅しだれコンサートはそれ程に人気の高いイベントであり、神苑の夜桜見物は人の心を魅了するに値する八重紅しだれが咲き誇っているのである。
だからこそ、紅しだれに託した美と京の精神をメッセージする催しであり続けてほしいと願うのである。

暮れなずむ前から応天門前広場に入場券を持った行列ができる。
夕闇が迫ると広場は開門を待つ群集で埋め尽くされている。
行列の前の方に並ぶ人はコンサートの開かれる東神苑に急ぎ、栖鳳池淵のステージがよく見える場所をいち早く確保するのが狙いの人たちである。
とはいえ、東神苑には直行できない順路が組まれている。

つまり、南神苑の紅しだれのライトアップゾーンを通り、一旦神苑を出され大極殿前の縄張りされた順路を、神楽殿横の東神苑出口に向かうようになっている。

南神苑に入っても、数列に並びながらの牛歩で前に少しづつ進むことになるので、
東神苑に直行しようと縄張りを潜る人が出ないよう、南神苑の出入り口近くや大極殿前には、見張り役のブルゾン姿のスタッフが配されている。
割り込み禁止というわけだ。

行列で牛歩しながらの紅しだれの見物とは、神苑にあって風情のない話だが、我慢して前に連なり東神苑までひとまず進み、コンサートが終わってから南神苑の紅しだれを観賞されるのが適切である。

当日は東神苑出口から入り、直ぐ左がこの日の順路とされている。
尚美館の裏を進むと、左手の小松山の木々へのライティングが目映く飛び込んでくる。一斉に溜息が漏れる。前方のしだれ桜の花々は白い光を跳ね返している。
列が崩れ、それぞれお気に入りの桜の前へ進み、花々の写真を撮り出す者、桜に抱かれるように記念撮影のポーズを取る者、誰も満面の笑みを浮かべている。

右手の松の枝と枝の間から見える栖鳳池の様子を覗き込む者もいる。
この辺りで感激し立ち止まる者は、紅しだれコンサートが初めての人である。
手馴れた者は立ち止まらずどんどん前へ進み、池周りを一周し泰平閣(橋殿)の下へと急ぐ。

そこには、ちょい掛けできるベンチ風の腰掛がついている。北側の腰掛に陣取るのである。南側の腰掛では、前に立見の人が並ぶので、ステージも桜も全く見えず、背中を見物する羽目になる。

もっとも、南の平安神宮会館側の庭池とライトアップされた山桜にしだれ桜を眺め、苑内に流れる演奏に耳を傾けるという方なら、栖鳳池縁の人垣の中で立ち往生したまま終演を待たなくとも、ゆったりしていられる。

夜空に薄桃色の紅しだれの花々の姿が浮かびだされ、同じ文様が逆様に真下の栖鳳池に映し出されている。
東山の山陰を背景にした橋殿は薄黄緑を帯びた竜宮城のように感じる。正面には、薄青色の靄に包まれたように尚美館が浮かび、幻想的な空間をより一層謎めかせている。
観衆の夢心地は否応なしに増幅され、期待感に胸弾むばかりである。

苑内に音が流れ出すと、ミュージシャンの奏でる音階や音色は、心に、体にやさしいリズムを刷り込んでくる。
音霊が響き、日常から解き放たれた観衆の魂に安らぎを与え、紅しだれの精と戯れさせてくれるのだ。

祈りを込めた花鎮めの祭りが、平安の昔より京都にはある。
その昔、疫病は桜の花に宿り、花が散ると花びらにのり、四方八方に飛び散ると考えられていた。
疫神もともにして、花がいつまでも枝に鎮まることを祈って、「やすらえ花よ」と歌い、踊り、無病息災を祈ったものである。

そんなことを思い出しながら神苑の時間を過ごしていると、紅しだれコンサートは、まさに現代人の疫病神を鎮めるやすらい祭りだと信じたくなる。

終演すると、 南神苑に再入場し、煌びやかに照らし出された八重紅しだれに、「やすらえ 花よ」と言霊を送り、東神苑の花々にも同様の祈りを捧げることを小生の恒例にしている。

平安神宮
http://www.heianjingu.or.jp/09/0101.html



【参照リンクには、現在なくなったものがあるかもしれません。順次訂正してまいりますが、ご容赦ください。】
5372-110405-4月

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