花見シーズンの渋滞や混雑を逃れ、桜を楽しむなら近場の西陣が良い。
半日ぐらいの街歩きで、隠れた名刹を探訪できる。
西陣には日蓮宗の寺院が数多くあり、その中で三具足山と呼ばれるのが、妙顕寺、妙覚寺、立本寺である。何れも境内にはそれぞれの風情ある桜が咲く。
その近隣には妙蓮寺、本法寺もあるので、この五山を巡ると更に良い。
この五ケ寺は見頃満開の時期を概ね同じくするが、時期のズレがあっても、周辺には桜の見所が早咲きのところも、遅咲きのところもあるので、ハズレなく安心して出かけられる。
例えば、早い時期なら、千本釈迦堂、水火天満宮などが上げられるし、中ごろを過ぎた遅咲きなら雨宝院という具合である。地図をみれば、成る程と納得されるはずである。
さあ出掛けよう。
まず目指すは妙覚寺からである。上御霊前通堀川を公園沿いに東へ歩く。
左手の公園越しに色鮮やかな紅しだれが見えるのは水火天満宮で、右手の塀は涅槃図で知られる本法寺の北の塀である。
一筋目の小川通を過ぎ、暫く進むと、桜色が溢れるように目に飛び込んでくる。
表大門傍にある早咲きの「枝垂桜」の大木である。門前には、少し遅れて満開となる「八重桜」や「紅しだれ桜」が花開かせているが、まだまだ遠慮がちのように見えた。
これから、バトンタッチするのだろうが、門前の大木の年季の入った美貌には到底適わないと思っているようだ。
表大門の枝垂れ桜は門札のあたりまで、枝垂れた花を見せつけている。
見惚れるのは桜ばかりではない。この表大門も、また見惚れるのである。
じっくりとご覧になると良い。
どこか武家風のにおいのする大型の薬医門の体である。
その門は、梁上(りょうじょう)に伏兵を配置できる場所が設けられているのだが、知らないと見過ごし通り越してしまう。この門は1663年に移築されたもので、元は秀吉の「聚楽第裏門」だったのである。
妙覚寺といえば、織田信長の上洛時の常宿として知られた寺院である。
信長が亡くなったのは本能寺であったが、あの晩の妙覚寺には嫡男織田信忠が泊まり、明智勢を討つべく二条御所へ向かうが、果たせず自害した。この時妙覚寺も本能寺同様に焼失させられたのである。
そして翌年、秀吉の命により現在地に移転造立された。そんなことを思いだしながら、境内の奥へと進む。
表大門の正面奥に祖師堂、堂内には日蓮・日朗・日像の坐像が安置されているが、永らくの改修工事が続いている。
その左手に、手入れされた前庭の庫裏があり、その北に本堂と本堂を囲う塀が一直線に伸びている。塀の一角に唐門があり、「狩野元信之墓」と刻まれた石碑が建つ。狩野元信・永徳ら一門の菩提寺なのか。塀内には白い花をつけた山桜が咲いていた。
目線を石碑から離すと、塔頭善明院の紅しだれが華やかな色づきで青空に咲いている。三分咲きぐらいなのだが、ふさふさとした花着きに、遠目には見頃と感じさせられる。
漆喰の白壁に乗る瓦、山門の屋根瓦、本堂の瓦屋根、それらの遥か高いところで春を謳歌しているのだ。心なしか甍が桃色に染まっているように見えた。絶景である。
祖師堂の北裏にあたる場所なので、駆け足の寺院めぐりだと見落とす人も多かろうと思う。門前に止まらず、是非、境内はひと歩きしていただきたい。
威風堂々とした表大門をあとに、小川通を裏千家今日庵まで南へ下る。
閑静な風情の前に、桜色のソメイヨシノと新緑の柳の枝垂れが迎えてくれる。
右に本法寺の色褪せた朱の仁王門を潜る。
本法寺といえば、長谷川等伯筆の「仏大涅槃図」と本阿弥光悦造庭の「三つ巴の庭」を思い出す。
日親が本阿弥清信の帰依を得て1436年に創建した、本阿弥家の菩提寺となる寺院である。
石畳に誘われるままに、摩利支天堂や狛猪を眺めながら境内を歩くと、その先に多宝塔が現れる。いずこも桜色の景色で晴れやかな気分にさせられる。
多宝塔の周りをひと回りして気づくことは、枝垂桜が見当たらないことだ。
境内のソメイヨシノは見頃で、申し分ない位に伽藍との調和が取れている。
何か意図しているのだろうか。
多宝塔を仰ぐ等伯の像が建つ。等伯像と同じ視線でソメイヨシノを背後にする多宝塔を眺めてみた。
石灯籠からも覗いてみた。
本堂に開山堂、宝物館と、次々と桜に絡めて眺めてみた。
ゆっくりとした時間が流れている。
今日庵の人らしき着物姿の往来が何度かあった。
ファインダーを長らく覗きこんでいる一人のカメラマンがいた。
平常平穏の中に桜が咲いている。
日親上人の説く悠久の信仰がいかなるものかと気になった。
1463年、地蔵ヶ原で、焼いた鍋を頭に被せる酷刑を受け、後に「鍋かぶり日親」と称された、開山日親の生涯を知りたくさせられた境内となる。
気づけば、予定時間はとうに過ぎている。
急ぎ、妙顕寺に向かうこととした。
半日ぐらいの街歩きで、隠れた名刹を探訪できる。
西陣には日蓮宗の寺院が数多くあり、その中で三具足山と呼ばれるのが、妙顕寺、妙覚寺、立本寺である。何れも境内にはそれぞれの風情ある桜が咲く。
その近隣には妙蓮寺、本法寺もあるので、この五山を巡ると更に良い。
この五ケ寺は見頃満開の時期を概ね同じくするが、時期のズレがあっても、周辺には桜の見所が早咲きのところも、遅咲きのところもあるので、ハズレなく安心して出かけられる。
例えば、早い時期なら、千本釈迦堂、水火天満宮などが上げられるし、中ごろを過ぎた遅咲きなら雨宝院という具合である。地図をみれば、成る程と納得されるはずである。
さあ出掛けよう。
まず目指すは妙覚寺からである。上御霊前通堀川を公園沿いに東へ歩く。
左手の公園越しに色鮮やかな紅しだれが見えるのは水火天満宮で、右手の塀は涅槃図で知られる本法寺の北の塀である。
一筋目の小川通を過ぎ、暫く進むと、桜色が溢れるように目に飛び込んでくる。
表大門傍にある早咲きの「枝垂桜」の大木である。門前には、少し遅れて満開となる「八重桜」や「紅しだれ桜」が花開かせているが、まだまだ遠慮がちのように見えた。
これから、バトンタッチするのだろうが、門前の大木の年季の入った美貌には到底適わないと思っているようだ。
表大門の枝垂れ桜は門札のあたりまで、枝垂れた花を見せつけている。
見惚れるのは桜ばかりではない。この表大門も、また見惚れるのである。
じっくりとご覧になると良い。
どこか武家風のにおいのする大型の薬医門の体である。
その門は、梁上(りょうじょう)に伏兵を配置できる場所が設けられているのだが、知らないと見過ごし通り越してしまう。この門は1663年に移築されたもので、元は秀吉の「聚楽第裏門」だったのである。
妙覚寺といえば、織田信長の上洛時の常宿として知られた寺院である。
信長が亡くなったのは本能寺であったが、あの晩の妙覚寺には嫡男織田信忠が泊まり、明智勢を討つべく二条御所へ向かうが、果たせず自害した。この時妙覚寺も本能寺同様に焼失させられたのである。
そして翌年、秀吉の命により現在地に移転造立された。そんなことを思いだしながら、境内の奥へと進む。
表大門の正面奥に祖師堂、堂内には日蓮・日朗・日像の坐像が安置されているが、永らくの改修工事が続いている。
その左手に、手入れされた前庭の庫裏があり、その北に本堂と本堂を囲う塀が一直線に伸びている。塀の一角に唐門があり、「狩野元信之墓」と刻まれた石碑が建つ。狩野元信・永徳ら一門の菩提寺なのか。塀内には白い花をつけた山桜が咲いていた。
目線を石碑から離すと、塔頭善明院の紅しだれが華やかな色づきで青空に咲いている。三分咲きぐらいなのだが、ふさふさとした花着きに、遠目には見頃と感じさせられる。
漆喰の白壁に乗る瓦、山門の屋根瓦、本堂の瓦屋根、それらの遥か高いところで春を謳歌しているのだ。心なしか甍が桃色に染まっているように見えた。絶景である。
祖師堂の北裏にあたる場所なので、駆け足の寺院めぐりだと見落とす人も多かろうと思う。門前に止まらず、是非、境内はひと歩きしていただきたい。
威風堂々とした表大門をあとに、小川通を裏千家今日庵まで南へ下る。
閑静な風情の前に、桜色のソメイヨシノと新緑の柳の枝垂れが迎えてくれる。
右に本法寺の色褪せた朱の仁王門を潜る。
本法寺といえば、長谷川等伯筆の「仏大涅槃図」と本阿弥光悦造庭の「三つ巴の庭」を思い出す。
日親が本阿弥清信の帰依を得て1436年に創建した、本阿弥家の菩提寺となる寺院である。
石畳に誘われるままに、摩利支天堂や狛猪を眺めながら境内を歩くと、その先に多宝塔が現れる。いずこも桜色の景色で晴れやかな気分にさせられる。
多宝塔の周りをひと回りして気づくことは、枝垂桜が見当たらないことだ。
境内のソメイヨシノは見頃で、申し分ない位に伽藍との調和が取れている。
何か意図しているのだろうか。
多宝塔を仰ぐ等伯の像が建つ。等伯像と同じ視線でソメイヨシノを背後にする多宝塔を眺めてみた。
石灯籠からも覗いてみた。
本堂に開山堂、宝物館と、次々と桜に絡めて眺めてみた。
ゆっくりとした時間が流れている。
今日庵の人らしき着物姿の往来が何度かあった。
ファインダーを長らく覗きこんでいる一人のカメラマンがいた。
平常平穏の中に桜が咲いている。
日親上人の説く悠久の信仰がいかなるものかと気になった。
1463年、地蔵ヶ原で、焼いた鍋を頭に被せる酷刑を受け、後に「鍋かぶり日親」と称された、開山日親の生涯を知りたくさせられた境内となる。
気づけば、予定時間はとうに過ぎている。
急ぎ、妙顕寺に向かうこととした。
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