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夏越祓 茅の輪くぐり by 五所光一郎

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「みな月の なごしの祓へするひとは ちとせのいのち のぶといふなり」

この和歌を繰り返し唱えながら、左右左と八の字をなぞる様に、茅の輪に一礼し、三回くぐり、その後に拝所に進み祈願する。

これは、小生の夏越祓茅の輪くぐりでの要領である。

この和歌は、平安時代延喜5年(905年)の古今和歌集に始まる勅撰和歌集の三代集といわれる拾遺集に詠まれている。

無言無心にくぐるのも味気なく思い、といって、身禊の祓の祝詞を唱えるのも気恥ずかしく、また、半年間の諸々の罪穢れを懺悔するには忙しすぎる。

そんなことから、長らくこの和歌を呪文のように唱えている。

他の唱え言葉には、「思うこと みなつきとて 麻の葉を きりにきりても 祓いつるかな」というのも耳にする。

こうして、新年よりの半年を節目として、日々の安全に感謝し、その行いを反省し、心身を新ため、残る半年の無病息災、厄除祈願を行う。

茅の輪をくぐっていると、茅(ちがや)の爽やかな青い香りに気づく。

この茅の香りが呪力を持っているのか、自然と気持ちが落ち着き、心も清浄されていくように感じる。

薬草や花などの香りを用いて、鎮静効果やストレスの軽減を図るのにアロマテラピーがあるが、心身のリフレッシュを行う点では共通した効用がある。

心身の疲れが癒され、平常時にリセットされるのであろう。

そんな状況を「蘇ったようである」という言い回しをすることがある。
蘇るとは、「生まれ変わる」とか「元に戻る」との意味であるが、原義は、死んだもの、死にかけたものが生きかえることである。つまり、「黄泉(よみ)」の国から「帰る」の意味から生まれたことばであったのだ。

半年経っても、もう一度年のはじめに戻してくれ、真っ白なスタートを切れるよう生まれ変わらせてくれるという大変ありがたい節目の儀式が、夏越祓茅の輪くぐりである。

夏越祓の神事は6月30日に京都の各神社で執り行われ、茅の輪くぐりができる神社もあちこちにある。

6月1日に茅の輪が取り付けられ、一ヶ月の間いつでもくぐれるのが車折神社、6月20日頃から10日前後の間くぐれるのが野宮神社、6月25日夏越天神の日に茅の輪くぐりがあったが、30日に再設置されるのが北野天満宮である。

天神さんは楼門のまん中の出入り口を囲むように、柱に沿ってこさえられている。
素通り一回で通り抜ける人がほとんどであるが、まん中と左右の出入り口を利用して、やはり八の字を描くように、茅の輪の付いた楼門を三回くぐりでお参りする手もなくはない。もっとも、大茅の輪に拘らなければ、本殿前に茅の輪は用意されている。

大きい茅の輪で挙げるなら、城南宮もある。人のくぐる茅の輪くぐりは6月25日からであるが、7月1日から一週間の間は、馬蹄型のジャンボ茅の輪が用意され、大型バスも通り抜けることができる車の茅の輪くぐりが用意されている。
言い換えると、茅の輪のドライブスルーとでも言って良いのだろうか。

6月30日の夏越祓は水無月の大祓とも呼ばれるが、旧暦の水無月や立秋の前日におこなわれる神社もある。
水無月の大祓で茅の輪くぐりが執り行われているのは、貴船神社上賀茂神社、平野神社、建勲神社、水火天満宮、上御霊神社、白峯神宮、護王神社、岡崎神社、平安神宮、熊野神社、吉田神社、粟田神社、新日吉神宮、八坂神社、恵美須神社、地主神社、安井金比羅宮、新熊野神社、市比売神社、六孫王神社、吉祥院天満宮、藤森神社、伏見稲荷大社、梅宮大社、松尾大社、大原野神社、などである。

では、夏越祓茅の輪くぐりに参詣できずに、半年の穢れが祓えない人たちも多いだろうが、その場合はどうすれば救われるのか。

そんな時は、人形(ひとがた)に代理してもらうことで、その日の神事で大祓いにて祓われ、よみがえることができるとなっている。
忘れずに、人形を献納されておくことをお勧めする。

献納された人形は神殿へ人形納めされるのが一般的であるが、大祓いされたあと、それは焚かれたり、川に流されたりする。

人形流しされるのは、貴船神社城南宮上賀茂神社である。

上賀茂神社夏越祓式の人形流しの様子は、小倉百人一首98番にある従二位藤原家隆(1158〜1237年)の歌に詠まれている。

「風そよぐ ならの小川の夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける」
口語訳にすると、

「そよそよと吹きわたる六月の風に、ナラの葉がそよげば、 この「奈良の小川」のあたりの夕暮れは、もうすっかり秋の気配が感じられる。だが、あの川のほとりで行われている六月祓の行事だけが、まだ夏のしるしなのだなあ」と。

詩情を体感したく、上賀茂神社夏越祓式に馳せ参じたのは昨年のことである。

6月30日午後8時。夕暮れは過ぎ、陽は落ち、青紫色の空も真っ暗となった。
夜の帳の先に揺らいでいる篝火の灯かりがわかる。
夕闇に包まれた二の鳥居の間から立砂前に設えられた茅の輪がぼんやりと見えた。
細殿の向こうに白装束に身を包んだ神官らしきものの姿が動く。

橋殿に近寄った。「ならの小川」の水面が赤く幻想的な光を放っている。
そこへ神官の手で人形が投じられてゆく、橋殿の雪洞に青白く照らされる神官がまた人形を取り上げ、水面に投じてゆく。
一枚、また一枚と次々に。聞こえるのは祝詞奏上の厳粛な響きだけであった。
701年大宝律令により制定された行事は現在も綿々と続けられている。

パソコンゲームのリセットボタンのようには行かずとも、心身をリフレッシュできる術であることは間違いないようである。

どうやら、日々の生活に茅と人形が必要な気がしてならない。
否、毎日使うと効果は薄れるかも知れず、処方箋の大宝律令には年2回となっている。

現代医学での過剰投薬が問題視されているが、古来より、過ぎたるは及ばざるがごとし、という。


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関連歳時/文化
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