珍無類、京都の大仏物語(その1・建立前史)
  〜かつて京都には大仏様がおられた〜

【言っておきたい古都がある・17】 by 谷口 年史

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 「京都の大仏」というと「京都に大仏なんてあったのですか」と言う人も多いと思う。あったんですね、ほんの30年ほど前まで。当然、今はなくなっているわけだが、そのなくなり方というのがハンパではない。1回でなくなったわけではないのである。
 
 豊臣秀吉が創った初代大仏は6丈3尺(19メートル)であった。奈良の大仏が15メートル、鎌倉の大仏が11メートルなので、秀吉の大仏が現存すれば日本一の大仏様になっていた。そして大仏殿も地上から最長部まで45メートルあったという。
 
 ところで、あるガイドブックにこの秀吉が創った大仏は「漆喰(しっくい)で出来ていたのですぐ潰れた」と書いてあるのを見たことがある。
 「漆喰」というのはご存知ですね。国語辞典を引けば「石灰をふのりを溶かした液で練って、すさを入れたもの。壁塗りの材料」とあります。
 (注)「すさ」⇒壁土に混ぜてつなぎとするわら、アサ、紙などの細片。
 
 漆喰みたいなもので19メートルもの大仏が創れますか?
 
 これは恐らく「漆黒」の勘違いではないかと思うのだが。「木造漆黒仏」つまり、木で作った仏像に漆を塗って奇麗に仕上げたやつ。でないと、どう考えても「漆喰」では意味が通らないと思う。
 断定するだけの史料を持ち合わせていないので「漆喰は間違いだ」とは言わずにおく。この辺りはミステリーである。
 
 で、この京都の大仏が代々どのような災難に見舞われたか。否、見舞われていったか。
 その数奇な運命をご紹介する前に、大仏が出来るまでの経過をたどっておこう。

 さて、豊臣秀吉は政権を取ると京都でかつて後白河法皇の領地であったところを皇室から買い取った。残念ながら、いくらで買ったのかは現時点では調べがついていない。以前、私のツアーに来てくださったお客さんが「かなり買い叩いたのと違いますか」と仰いましたが、それはありません。やはり「そこそこの値段」で買っているのは間違いないだろう。どこでそれが分かるのか?
 
 秀吉が政権を取った時の天皇陛下は正親町天皇である。正親町天皇は在位30年に及び、そろそろ皇太子に譲位してはどうかという声も出ていた。そして天皇にも譲位の意思はあったのだが、ここに困ったことがあった。

 戦国時代が長く続いて、さしもの皇室も経済的にはかなり逼迫していた。つまり、譲位をするのは簡単でも、その後の即位の御大典をやるお金が無かったのである。
 譲位したくても出来ない状態がズルズルと続いているうちに何と、皇太子のほうが先に死んでしまうという椿事が起きた。次の皇位継承者はこの皇太子の息子(つまり正親町天皇の孫)になり、経験も何も無い少年が皇位につくことになる。金も無ければ経験も無いという天皇陛下の下で国がまとまるか?
 
 その時、皇室の前に現れたのが豊臣秀吉だった。で、「お宅の土地、売ってもらえませんか」という美味しい話を持ちかけたのである。

 豊臣秀吉が政権を取ったとは言っても伝統勢力から見れば成上がり者。そこで手っ取り早く箔を付けるために皇室の権威を利用した、というのが定番の解釈ということになる。現代でも新興企業が歴史のある企業を傘下に収めるのは珍しくない。他の大名が政権を取ったとして、秀吉のような大盤振る舞いをしたかどうか。
 
 土地を買い取ってもらったおかげで正親町天皇は孫である後陽成天皇に譲位することが出来た。

 この時天皇15歳。職務権限は無いけど責任はあり、天皇として百戦錬磨の魑魅魍魎のような公家衆に取り囲まれ、本来即位するはずの父親も他界しているし、頼るべき上皇も高齢者。こんな状況に1人で放り出されてしまったら、かなり心細いであろうことは想像に難くない。

 そこへ物心両面で援助をしてくれる秀吉の存在は少年天皇にとってどれだけ頼もしい存在だっただろうか。実際、秀吉は後陽成天皇の元服の式で冠の紐を結ぶ役をやっている。一見、秀吉のほうが擦り寄っているかに見えるが、その実、皇室を手玉に取った。「鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス」の俳句とおり、天皇は秀吉に都合のいいように鳴いて、秀吉は権力に正当性の裏づけを付けることが出来たのであった。
 
 そしていよいよ、皇室から買い取った後白河法皇の土地に豊臣家の権力の象徴とも言うべき京都の大仏を建立するのである。

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関連歳時/文化
京都の大仏
漆黒
漆喰
6丈3尺

関連施設/場所
関連人物/組織
豊臣秀吉
正親町天皇
後白河法皇
後陽成天皇

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