「鉄輪(かなわ)の井戸」にちょっと寄り道
 〜冥界編ハイライトは続く、どこまで続く?〜

【言っておきたい古都がある・46】 by 谷口 年史

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 さて、京都ミステリー紀行・冥界編のハイライトも、死出の旅路を終え、地獄八景を見学したが、さらにもう少し続きがある。
 しつこいですか?
 ほとんど無間地獄かもしれません。

 今回は松原通の名所にしばし寄り道をする。
 苔は結構有名で、写真にあるのは「鉄輪(かなわ)の井戸」である。
 今まで話の内容と松原通の名所は何の関係もなかったが、これだけは関係アリなのである。
 厳密には「松原通り沿い」ではないだろうが、近い。そして分りにくい。そこが秘密めいていて良いのである。

 まあ、何はともあれ、この話には文献によっていくつかのヴァージョンがあるようだ。「宇治の橋姫」というのもこれのヴァリエーションだろう。能に取り入れられたヴァージョンでは陰陽師が奥さんの霊を鎮めて、ハッピーエンドのようである。

 ここでは各ヴァリエーションの細かい違いをまとめて、京都ミステリー紀行風にアレンジしてお届けしよう。

 京の都に若夫婦が住んでいた。夫は懸命に働き、妻は夫を健気に支えている。真面目に働いた甲斐があって、夫は財産を築く。
 で、ご多分に漏れず、金がたまると奥さんのことをほったらかしにして遊ぶようになった。と、定番の話ですね。
 
 とうとう外に愛人をこしらえてそこに入り浸り。奥さんが「やめてくれ」と言っても聞かない。そしてついに「こんなうるさい嫁はもういらん」と、奥さんを追い出して愛人を迎え入る。
 
 怒り狂った奥さんは夜な夜な鬼の形相の化粧をして神社で二人を呪う。丑の時参りですね。
 
 毎日毎日、来る日も来る日も呪い続け、とうとう憎き夫とその愛人は死んだのである。
 ついに願いがかなった! 奥さんの勝利の笑いが月夜の空に響き渡る。
 
 さて、奥さんは家に帰り、いつもと同じように恐ろしい形相の化粧を落とす。
 そして鏡を見てのけぞった。
 
 化粧を落としたのに顔が鬼の形相のまま固まっている!
 
 慌ててもう1度、顔を洗ったが、やはり同じであった。何度も何度も洗ったのだけど、顔は鬼の形相のまま変わらない。
 
 「顔が。。。私の顔が!!!」
 
 ついさっき、勝利の笑いが響いた夜の空に、今度は奥さんの悲鳴がとどろいた。。。
 
【言っておきたい古都がある・46】
 この後、奥さんは写真の井戸に飛び込んで死んだ。しかし成仏することは出来ず、今もこの井戸の中に奥さんの霊が留まっているのである。

 とまあ、こんな話になります。

 ところで、こんな事が実際にあるかというと、実は起こり得るのである。
 昔の化粧品には鉛のような有毒成分が結構含まれていた。
 毎日そんな化粧品をタップリと使って化粧をしていたら、やっぱりお肌が荒れますね。
 化粧の濃い部分と薄い部分では荒れ方が違うので、結果的に荒れ方の濃淡は化粧の線に沿うことになります。
 故に、電気のない時代、夜の薄暗い部屋で鏡を見れば顔が化粧をしていたときのままに見えてしまった。
 今までは憎しみに凝り固まっていたために顔の変化に気付かなかったけれど、思いがかない、落ち着いて見ることが出来るようになって初めて変化に気付いたのだと。
 
 如何ですか、この解釈。
 それにしても「人を呪わば穴二つ」とはよく言ったものである。

 さて、ここで小休止を終えて、次回からは冥界編ハイライトの奥の院、六道の世界をご覧いただきます。


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関連歳時/文化
地獄八景
鉄輪(かなわ)の井戸
宇治の橋姫
陰陽師
無間地獄

関連施設/場所
京都市下京区鍛冶屋町(堺町通)
松原通

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