異形の鳥居
   〜これを潜ったその先は?〜

京都ミステリー紀行【言っておきたい古都がある・3】 by 谷口 年史

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 神社と寺の町である京都には鳥居のある風景も珍しくは無い。平安神宮の大鳥居御香宮神社鳥居のように道路を跨いで仁王立ちよろしくデンと聳えているものもある。
 珍しいところではさいきん週刊誌などでも紹介されている御金神社の金の鳥居と縁きり祈願で有名な安井金毘羅宮の四角い鳥居などを挙げることが出来る。
 そこで今回は京都中、いや日本中、いやいや世界中探しても他には無いだろうというのを2つご紹介しよう。

 まずは見てのとおりの鳥居である。別に何の変哲もない、何の取り柄もない鳥居であるが、左右の端が隣の建物にめり込んでいる。
 中々シュールな光景ではないか。
 何故こんな事になったのか。
 
 もともと左右の端は普通に外に出ていた。ところが左右の土地に新たなビルを建てるとき、敷地いっぱいに壁を作ると鳥居の端が境界線を超えてしまうのであった。それまではそんなギリギリに建てていなかったから問題なかったのである。さてそうなると、鳥居の端を切るわけにはいかない。かといって、土地いっぱいに建物を建てる地主の権利を制限するわけにもいかない。そこで、これが京都らしい妥協の産物かもしれないが、鳥居の両端を敷地いっぱいに建てた壁にめり込ませてビルの内部へ突き出させたのである。
 
 これにより鳥居の端を切ることもなく、ビルを建てる権利を侵害することもなく、双方の顔が立ったのである。
 
 さて、鳥居の端が壁にめり込んで反対側に出ているということは、左右のビルのこの壁側の部屋に入ると、壁を突き抜けて鳥居の端が「ぬっ」と出ているということである。部屋の中に委細かまわず鳥居の端っこがドンと出ているというのも、中々シュールな光景ではないだろうか。

 もうひとつ、これも度肝を抜いている。

 見てのとおり、真ん中が無いのである。決してパロデイではなく、真面目にやっているようだ。ある新興宗教の敷地にある。この鳥居をくぐると、って言っても、これはくぐりようがないではないか。無いのだから。無い物の下はくぐれない。にもかかわらず、くぐると開運になるらしい。つまり、鳥居そのものが「開いて」いるから、その下を「くぐる」ことによって自分の運も「開ける」のだと。
 うーむ、言われてみればその通りなのだが、何事も合理的な解決が付かないと気が済まない本格ミステリ・ファンの私は「真相」を推理してみた。

 考えるに、この鳥居の両側が建っているのはこの宗教団体の土地であろう。自分の敷地になにを立てようと自由である。しかし真ん中の道路は公道ではないだろうか。公道の上を遮る鳥居の「真ん中部分」を作ることが出来なかったのではないか。
 でも、普通の神社の鳥居は公道の上でもちゃんと作っているではないか、と思われるだろう。神社の場合は、今の法律が出来る前からそこにあった鳥居だから法律の適用外になるのかもしれないし、あるいは何らかの特例があるのかもしれない。しかし新興宗教の場合はその特例が受けられないとしたら?
 あるいはまた、自動車が通行するための高さ制限に関する規定に引っかかったのかもしれない。
 もっと考えれば他の理由も思いつくかもしれないが、この辺でやめておく。

 本当の理由が何であれ、この新興宗教の偉いところは発想の転換によって普通なら誰も作るはずのない「真ん中が無い鳥居」を作ったということである。当たり前の鳥居なら普通の神社と変わらないだろう。しかし鳥居を作りたかった。でも法か何らかの理由に阻まれて作れなかった。そこで自分たちで問題なく作れる部分だけ作ってしまったと。そしてそれに「開運」という意味づけをすることによって、不完全なものを「完全」なものに変えてしまったのである。本来なら不完全なはずの「真ん中の無い鳥居」は不完全なままで「完全な鳥居」としての存在価値を与えられたのだ。
 まるでブルックナーの交響曲第9番が未完成のままで完成しているのと同じパラドックスではないか。

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