京都の料理職人達 vol.5
 【いづう】 佐々木 勝悟 氏

色香のある老舗寿司屋の
 暖簾を守る次世代の感性

 京寿司の代表といえば、鯖寿司。鯖寿司といえば、誰もが[いづう]と答えるだろう。創業は天明元年(1781)。以来約220年間、京寿司を作り続けている老舗中の老舗だ。古くからお茶屋の仕出しをしてきたせいだろうか、ここの寿司は色も香もあり、艶っぽい。しかも、盛り付けにも工夫が凝らされている。「寿司を積む盛り方は、祇園独特の仕事の仕方。上から取って食べるので最後まで盛り付けが崩れず、見栄えがいいんですよ」と若主人の佐々木勝悟氏は目を細める。「花街の美意識が息づく、この美しい寿司作りに携わりたい」。それが[いづう]の後継ぎになると決めた理由である。また、こうも言う。「小さい頃、父の手に染み付いた酢の匂いが好きでした。父と一緒に仕事がしたい、と子ども心に思いましたね」。
 
 大学卒業後は、大阪の名店[すし萬]で3年間修行を積んだ。入店前、板場では「[いづう]のせがれが来るぞ。何と呼んだらええんや」とちょっとした騒ぎだったそうだが、柔和な性格の佐々木氏は職人らに可愛がられ、老舗を継ぐ上で大切なことを多く学んだという。「特に、職人さんたちと一緒に働いたことは貴重な体験でしたね。あの時代があったからこそ、今、従業員が何を考えているのかがよく分かるんです」
老舗寿司屋の主にとって、従業員と和合することも重要な仕事だという。そしてもう一つ大切なのは、時代の流れを察知する嗅覚だ。「先々代は大徳寺弁当なども出していましたが、先代は京寿司一筋。老舗の暖簾を守るためには、時代とともに経営方針も味も変えなければいけないと思うんです」。では、佐々木氏は何を変えたいのか、と尋ねると、少し考えてこう言った。「握りをやってみたい」。
 京都では、握りを出さない寿司屋は[いづう]と暖簾を分けた[いづ重]だけ。佐々木氏の夢は、京寿司を代表する同店にとってご法度のように思える。しかし、時代はそれを求めているのかもしれない。あの[いづう]が握りを始めた。かなりセンセーショナルではないか。そしてその次世代の感性は、老舗の暖簾を守る切り札になるはずだ。
 
 [いづう]に戻って3年余り。鯖寿司を作る姿も板につき、手には父と同じ酢の匂いが染み付いた。その手で日々握るのは、[すし萬]の職人たちから贈られた「佐々木」の名入りの包丁だ。その重みに、応援してくれる人々の真心を思う。老舗の暖簾と期待を背負う佐々木氏。その指先から、新しい何かが生まれる日が待ち遠しい。
佐々木 勝悟氏 ささきしょうご
1978年、京都生まれ。[いづう]の8代目当主。大学卒業後、大阪寿司の名店[すし萬]で修行を積み、3年前から[いづう]の若主人として板場に立つ。「百味会青年会」や「芽生会」などに所属し、若い料理人と切磋琢磨する一方で、口を肥やすために和洋を問わず食べ歩く。ちなみに、同店の鯖寿司を初めて食べた時は「世の中にこんな美味しいものがあったなんて」と感激したという。現在はその記憶を原動力に「お茶屋さんのお客様がお土産に持って帰れるような、粋なものを作っていきたい」と話す。

品書きに躍る、 代々の遊びごころ

 京都の各料理屋でいただける鯖寿司を初めて商品化したのは、[いづう]の初代、泉屋卯兵衛氏である。当初は仕出し中心だったが、約40年前から店内でも味わえるように。一代が一商品を考案するのが伝統で、品書きには定番の「鯖寿司」4410円(1本)や「京ちらし寿司」3150円のほか、先々代が考案した沢庵とじゃこを混ぜた「お台所寿司」、先代が生み出したおにぎりのような「弥次喜多寿司」など、遊び心ある品が名を連ねる。。

清艶な輝き 1本に込めた花街の美意識

膳に咲く花 旦那衆に愛される粋な手土産

鯖寿司
美しく輝く鯖寿司は名代の逸品。一般的に脂が乗っている=美味しいとされているが、「脂が乗っていなくても、その時季ならではの味わいがある。一年を通じて鯖のよさを感じてもらいたい」と佐々木氏。
京ちらし寿司
[いづう]といえば鯖寿司だが、京ちらし寿司も人気が高い。夏はハモを、冬にはサワラを混ぜ、タイやイカ、エビ、金糸玉子を散らす。花のように美しい寿司は、佐々木氏お気に入りの一品だ。



いづう

■京都市東山区四条切り通し  一筋半上ル東側 
■075・561・0751
■11:00x@Σ3:00 ■火曜休(祝日は営業)
2007年10月号掲載
※当時の記事の為金額等に変更がありますのでご確認下さい。

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