京都の料理職人達 vol.19
 【祇園にしむら】 西村元秀 氏

安くないからこそ
  満足を高める京料理

 京料理と一口に言っても、その題目を演ずる店の役柄はさまざまだ。何代も続く老舗の大店から小さなおばんざい屋にいたるまで、階層は異なっても何らかの京料理を楽しめる店なら枚挙に暇はない。実に、この裾野の広さは、各店が独自の京料理を表現することができ、またそう求められるということを示す。
 「祇園にしむら」は、カウンターと3室の座敷からなる、割烹的な京料理店。当主の西村元秀氏は、この規模の店だからこそなしうる、最上のコストパフォーマンスを常に考えている。「このご時世では、一万円の料理は決して安いものじゃない」と反芻する毎日。高額ゆえに、客の期待も、例えば単純に五千円の料理の倍とはいかず、何乗もの放物線を描いて高まるものなのだ。そんな期待に応えたいと思うと、やはり工夫は必要だ。
 まず、直接客の満足につながらない費用は削らねばならない。その一つが人件費。「打ち合わせも申し送りもせずにすむ」ほどの少人数制だ。各人が無駄を省いて自分の役目に励めば、ギリギリの人数でも厨房は動く。そして、もう一つが広告宣伝費だ。そもそも店のキャパシティは小さく、やたら宣伝をしたところで対応力には限りがある。とは言え…。ということで生まれたのが、名物・鯖寿司だった。「鯖寿司も千枚漬も京都のもの。それらを掛けて作った、これはイメージ戦略としての仕掛けだったんです」。ただし、京都のネームバリューに依拠しても、その効果を凌駕する美味をなさねばただの便乗になる。
 西村氏の望む鯖とは、「釣り物、大型、そして生であること」。近年は乱獲も激しく仕入れは困難だが、これだけは金額に糸目をつけず、必ず最高のものを手に入れる。名物ならば、常に最高の味を提供できなければならないからだ。この鯖を、酢と塩でさっと締める。鯖は生のむっちりとした風合いを残したまま、千枚漬のさっぱりした味で後口を清々しくする。そして、「祇園にしむらの鯖寿司」として脳裏に強烈な印象を残すのだ。
 「うちは『鯖寿司と胡麻豆腐の店や』と冗談まじりに言われるけれど、それでいいんです」。その評はイメージの定着、戦略の成功を意味しているからだ。かつ、定番品での満足を得られるという土壌があれば、客の目前で即興に演出する割烹料理の幅も広がる。かくして、客は、京料理におけるプレタポルテの安心とオートクチュールの独創とを同時に手にする。しかも料金以上を想定したサービスや演出によって、確実な食後の満足感を約束されている。これこそが、「祇園にしむら」で食事をすることの目的なのだ。
西村元秀 氏 にしむらもとひで
‘64年、京都生まれ。22歳より東京「吉兆」で7年間の修業を積んだのち、29歳で祇園に自店をオープン。祇園のイメージらしからぬ直球の物言いは、味やサービスに関する誠実さの裏返しでもあり、本質志向の客層に定評がある。料理人としての自分を「アホみたいに手が早い」と評し、無駄に時間をかけない仕事ぶりを潔しとする。ゆえに、客の眼前で味を築く割烹スタイルでこそ際立つ、「リアリティのある料理」が満喫できるのだ。

美味さのタネと仕掛けを
 探るべく再訪を約す京料理

 開店後十年にして、既に老舗の風格が漂う割烹料亭。カウンター八席、座敷は三室という小さめのキャパだけに、オーダーメイド的な行き届き感は抜群。味の仕掛けについての主人との会話も楽しく、「次は親を連れて来たい」と言いながら帰る人が多いのも納得。料理は10000円、12000円、15000円、20000円(税・サ別)

一発必中
失敗は許されないカウンター

名物の「鯖寿司」は京都らしい千枚漬の歯ざわりが絶妙のハーモニー。全コースで堪能できる。お土産や取り寄せ(3500円)は予約を
料理は10000円~のおまかせのみ。名物の鯖寿司と胡麻豆腐、そして西村氏が「一番難しい」と言うお造りは常に期待を裏切らない味
鯖寿司に使う鯖は、冷凍や一汐物でなく最上の生鯖。どんな高値になろうと、それが看板ゆえに逸品を確保するのは一つの矜持である。
圧倒的な大きさの鮪や鯛を、客の眼前で刺身に。素材の良し悪しまで丸見えの怖さがある。単純に見えて、最も集中と緊張を要する料理

名物の使命
店を語るに足る品質を求めて



少数精鋭
世界に役立つ存在になる為に
厨房の人員は西村氏を含めわずか4人。少人数制は、意思疎通の簡略化と同時に食材以外のコストダウン、すなわち客の得を意味する

祇園にしむら

■京都市東山区祇園町南側570-160
 075・525・2727
 17:00~21:00L.O.
 日休
2005年5月号掲載
※当時の記事の為金額等に変更のおそれがありますのでご確認下さい。

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