京都の料理職人達 vol.6
 【繁なり】 高木 隆慈氏

料理を起点に食育、環境問題まで
フィールドを広げる“活動料理人”

 素材を吟味し、料理を作り、お客にささやかな幸せを運ぶ。その専門家を「料理人」と呼ぶのなら、[お座敷 繁なり]と[仕出し処 二和佐]の店主・ 木隆慈氏のことを一体、どう呼べばいいのだろうか。
 伝統的な日本料理を手掛ける料理人であり、座敷に出ては持ち前の旺盛なサービス精神で、お客を楽しませるエンターティナーでもある。さらには、修学旅行や観光シーズンにピークを迎える仕出し弁当も、自ら配達することをいとわない。まさに一騎当千の活躍ぶりである。「今日と明日、200個ずつ注文をいただいているんです。修学旅行生のお弁当は大変ですよ。アレルギー品目を外して献立を考えなければいけませんからね」と 木氏は言う。とはいえ、その表情に疲れはない。むしろ、この状況を楽しんでいるようだ。
 好奇心旺盛で、興味を持ったことはとことん追求していく。そんな 木氏が今、熱心に取り組んでいるのは食育だ。「8年前、地元の小学校で座敷マナーの講師をした時、今の子どもや親御さんは、野菜や果物の旬がいつなのか知らないということに気づきました。旬の食べ物がいかに美味しくて体にいいのか、子どもに教えると同時に、子どもを通じて親御さんにも知ってもらいたいんですよ」。
 天地が育んだ恵みの美味しさを伝えること。それが日本の伝統を伝えることにもつながっていく。「若い頃は、フカヒレなどを使った創作料理も作りましたよ。口の肥えたお客様には『ここでフカヒレ食べるんやったら、中華料理屋に行くわ』と言われました(笑)」。
 そんなきっかけもあり、伝統的な日本料理の道を邁進するようになった。
 その一方で、環境問題にも力を入れている。「他店と協力しあって、店から出た生ごみを堆肥にして、美山や亀岡の畑で使おうと計画しています。将来的には、その野菜を食育に使ったり、ペーストにして離乳食にしたりして、子どもの味覚教育に取り組んでいきたいですね」。
 料理を通じて人と出会い、その中で気づきを得た高木氏は、料理を起点に教育や環境問題へとフィールドを拡大し続けている。近頃では京都府の地域再生事業の一端も担うが、それら全ての原動力になっているのは、「伝統を守り伝えたい」という思いだ。そしてそれこそが、創業91年という老舗の看板を背負う料理人が、異分野と関わる条件となっているのだろう。
 高木氏は料理人である。しかし、ただの料理人ではない。「活動する」料理人なのである。
高木 隆慈 氏 たかぎ りゅうじ
1965年京都生まれ。日本料理アカデミー会員、京都芽生会理事を務めるほか、京都府地域力再生プロジェクト推進会議のメンバーにも名を連ねる。環境に配慮し、店では割り箸の代わりにオリジナルのチタン箸を用意するなど、森林資源保護のための草の根活動を展開。少子高齢化に伴い、外出できない口の肥えた高齢者のために「冷めても美味しい仕出し料理に力を注ぎたい」と語る。

高木氏の漢字「高」は、「はしご高」と言われる文字がご本名です。

老舗の味を軸に
日本の伝統文化を発信

創業91年の老舗の[仕出し処 ニ和佐]を母体とし、食感や香り、お酒などの“出合いもの”を基本に料理を手掛けている。手頃な値段で敷居を低くし、着物のお客には割引サービスをするなど、若年層も利用しやすい店づくりで「和文化の情報発信レストラン」を狙う。
昼2700円(税サ込)~。夜6825円(税込・サ別)。季節のコース(要予約)は8400円~(税込・サ別)。
鱧おとしの生じゅんさいがけ
「鱧おとしの生じゅんさいがけ」は京都の夏料理に外せないハモを使った一品。鱧おとしには梅肉が定番だが、あえて生じゅんさいを組み合わせた献立は、いかにも京料理らしい出合いを楽しませてくれる


天地の恵みを一皿に 季節を運ぶ地元の滋味

閃きが生む出合い 旬の素材で四季を味わう

賀茂なすと鴨の出合いもん
細工が美しいチェコガラスの器に盛り付けた「賀茂なすと鴨の出合いもん」。とろみのあるネギ入り鶏ガラスープが、賀茂なすと鴨の風味をつなげる役割を果たしている
賀茂なす
この夏は、賀茂なすと鴨肉の組み合わせが登場する。「賀茂と鴨」の語呂合わせから生まれたような出合いだ。「料理はお客様との接続詞。『それから』『そして』の意味を込めておつくりしています」と話す

鴨肉
「美味しいだけでなく、体にいいものを食べてほしい」と高木氏は、食材からあしらいまで、季節を意識して選ぶ。そうすることで、1つの料理の色合いや風味がまとまるという



お座敷 繁なり

■京都市上京区小川通丸太町上ル上鍛冶町329 
 075・231・6710
 11:30~15:00(L.O.14:00)   17:00~21:00(L.O.20:00)
 水曜休

仕出し処 ニ和佐

■京都市上京区椹木町通油小路東入ル
 075・211・8701
2008年8月号掲載
※当時の記事の為金額等に変更がありますのでご確認下さい。

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