京都の料理職人達 vol.16
【京・百万遍 梁山泊】 橋本憲一 氏
パワーと哲学で
創りだされる新・京料理
京料理の料理人というと、何所の名店で修業しただとか、生家が老舗の料亭だとか、箔のある背景がつきものだ。だが、[梁山泊]の当主、橋本憲一氏は、その品位ある料理や雅な店構えからはにわかには信じがたいが、そのタイプではない。
大学時代に芝居にハマって、東京へ移り住み、アングラ演劇にのめりこんだ、アバンギャルドを象徴するような青年だった。鹿児島の大学に籍を置きながら、東京で舞台をし、そのさなかに、京都の生家で料理店をひらく。しかもそれがバリバリの京料理ときたが、料理人としての修業奉公などもちろんしていない。伝統を重んじるこの世界でなくとも、間違いなく変り種だ。
しかし、「京料理」の既存マニュアルに浸かっていないからこそ、その意義を誰よりも真摯に考えることもできる。
京料理のコースとは、ひとつのすぐれた料理体系である。一連の流れの中で表現される、味と温度と見た目のアップダウン。そこには芝居と共通する、時間芸術としての演出があり、それを橋本氏は「食べること、すなわち生きることに対する哲学のあらわれ」であると言う。中華料理やフランス料理にも、この哲学がある。
「でも京料理には、餃子やエスカルゴのように、それだけで完結できるパワーのある一品がないんです」。
おだやかに流れる時の中で優しく味わうことを旨とする京料理は、世界に打って出るだけの強さを備えた一品料理を持たない。それが、京料理がおおむねコースという文脈でのみ語られる理由だった。しかしこのままでは、これほど地球が狭くなり世界中の食を重ねることがたやすくなったこの時代に、取り残されるのは目に見えている。京都というネームバリューがいつまでも通用するほど、世の中は世間知らずではなくなっていた。
「いま、京料理は世界のフィールドで闘うファイトを持ちうるか?と考えると、答えはノーです。このままではダイエット目的のヘルシーフードとして可愛がられるだけの域を出ない。だったら、パワフルな新しい京料理を創りだしていかなければ」と橋本氏は考える。だからコースだけでなく、アラカルトにも力を注ぐ。おしなべて料理のテーマは、「今までにないものを創ること、そして面白いこと」。新しい創造は科学的な発想を根拠に生まれ、面白さは理屈をこえて感覚に直接訴えかける。この理性と感性の二枚看板で、舞台は整うのだ。
最近、料理人を志す若者が増えてきたという。もっと多くの若い才能が集まってくるように、魅力や可能性を広げておかないとね。橋本氏はそう微笑んで、話を終えた。
大学時代に芝居にハマって、東京へ移り住み、アングラ演劇にのめりこんだ、アバンギャルドを象徴するような青年だった。鹿児島の大学に籍を置きながら、東京で舞台をし、そのさなかに、京都の生家で料理店をひらく。しかもそれがバリバリの京料理ときたが、料理人としての修業奉公などもちろんしていない。伝統を重んじるこの世界でなくとも、間違いなく変り種だ。
京料理のコースとは、ひとつのすぐれた料理体系である。一連の流れの中で表現される、味と温度と見た目のアップダウン。そこには芝居と共通する、時間芸術としての演出があり、それを橋本氏は「食べること、すなわち生きることに対する哲学のあらわれ」であると言う。中華料理やフランス料理にも、この哲学がある。
「でも京料理には、餃子やエスカルゴのように、それだけで完結できるパワーのある一品がないんです」。
おだやかに流れる時の中で優しく味わうことを旨とする京料理は、世界に打って出るだけの強さを備えた一品料理を持たない。それが、京料理がおおむねコースという文脈でのみ語られる理由だった。しかしこのままでは、これほど地球が狭くなり世界中の食を重ねることがたやすくなったこの時代に、取り残されるのは目に見えている。京都というネームバリューがいつまでも通用するほど、世の中は世間知らずではなくなっていた。
「いま、京料理は世界のフィールドで闘うファイトを持ちうるか?と考えると、答えはノーです。このままではダイエット目的のヘルシーフードとして可愛がられるだけの域を出ない。だったら、パワフルな新しい京料理を創りだしていかなければ」と橋本氏は考える。だからコースだけでなく、アラカルトにも力を注ぐ。おしなべて料理のテーマは、「今までにないものを創ること、そして面白いこと」。新しい創造は科学的な発想を根拠に生まれ、面白さは理屈をこえて感覚に直接訴えかける。この理性と感性の二枚看板で、舞台は整うのだ。
最近、料理人を志す若者が増えてきたという。もっと多くの若い才能が集まってくるように、魅力や可能性を広げておかないとね。橋本氏はそう微笑んで、話を終えた。
いい作り手と食い手の妙が
より食事をうまくする原則
百万遍の路地奥で荘厳なムードを放つ和食店。京唐紙のしつらえが美しい座敷も秀逸ながら、できればカウンターで主人と話を交えながら食べたい。食い手としての才能を開花させることができるかもしれないから。昼食は月替わりのおまかせのみ5250円~。夜のおまかせは10500円~31500円。毎日変わる一品も多数。
アラカルト 良い料理店には一品物がある
カウンター頭上にはその日の単品メニューがズラリ。中にはボンゴレ・アラ・プロバンサールなどという興味を引く一品も見て取れる
京・百万遍 梁山泊
■京都市左京区吉田泉殿町5075・771・4447
12:00~14:00 17:00~22:00
日休(月曜が祝日の場合は日曜営業、月休)
http://www.ryozanpaku.net
2005年12月号掲載
※当時の記事の為金額等に変更のおそれがありますのでご確認下さい。
※当時の記事の為金額等に変更のおそれがありますのでご確認下さい。