京都の料理職人達 vol.14
 【京料理 修伯】 吉田 修久 氏

革新的京料理に潜む
誠実なオリジナリティ

 二〇〇二年。八坂の塔のすぐ下に開店した新鋭の京料理店が、連日のように満席だとの噂を聞いていた。いわゆる「伝統的な京料理」のイメージを刷新する、リーズナブルな価格帯、少量ずつ多彩な料理が味わえるコース、華麗な盛りつけ。繊細な演出のとりことなった女性たちが、カウンターに鈴なりになっているという話だった。その評判は、ほどなく「予約の取れない店」という称号に変わり、京都のみならず全国の美食家たちの話題となって定着する。
 それから、約三年。その店【修伯】の人気の高さは相変わらずながら、巷の声は少し落ち着きを見せてきたようだった。開店当時のあの熱い視線を、主人の吉田修久氏はいったいどのように受け止めていたのだろう。
 そのことを尋ねると、吉田氏は、種明かしをねだられたマジシャンのように苦笑した。
 「女性狙い…という訳でもなかったのですが、独立してひとりで新規開拓をしていかなければならない。とにかく興味を持ってもらわないといけません。そのための“デザート”でした」。
 “デザート”とは、【修伯】名物の一つである、フレンチスタイルのワゴンサービス・デザートのことだ。十種近くの和洋こもごもの甘味を、コースの最後に好きなだけ選んで食べられる演出である。この別腹の仕掛けは、それまでの京料理店には見られなかった新しい試みであり、また時流のリーダーたる女性陣のハートを掴める味わいをもっていた。デザートサービスに惹かれて来店した女性客は、決して少ない数ではない。
 しかし、動機はデザート目当てでも、料理を食べて「いい物を使っているな」と解る人は、次の来店につながる。さらに言えば、仕掛けられた演出に気づき、それを享受するだけでなく、満足してなお「もっともっと!」とのぞむ客の貪欲さが、いわばこの三年間の中身だった。
 いい食材を使うためには、仕入れ先との関係がなにより大切だ。「相手が困っているときは、自分が多少の損をしてでも助け合う」と吉田氏は言う。そんな積み重ねの先に、信頼が生まれる。
 「そうして仕入れたいい材料を、自分らしい皿に仕立てて、お客様を驚かせる。それが僕の望みですが、同時にそれをお客様自身にも欲していただかなければ、これからずっといい仕事を続けることはできませんから」。
 仕入れ先とも客とも、信頼関係という絆をがっちり築こうとする、吉田氏の真摯な姿勢。現在の常連客は、女性というよりむしろ夫婦づれが多いという。一時の人気にとどまらず、腰を据えた一生の付き合いをしたくなる店だという証拠だろう。
吉田修久 氏 よしだ のぶひさ
‘72年、滋賀県生まれ。高校在学中から6年間フランス料理店で修業したのが料理人生の始まり。渡仏を考えつつもツテに恵まれずにいたが、岡崎の名料亭【まる多】との出会いで和食界へ転身する。その7年後、独立し【京料理 修伯】を開店。京料理の一流店で培った確かな技術を礎に、洋の素材や演出を加えた新しい手法で人気を博す。現在の関心は、日本人としての自分が作る料理に、外国人がどういう印象を持つか?ということ。

斬新な独自のスタイルと
洗練された伝統が両立する

八坂の塔の足元という、もっとも京都らしい場所で営まれる新進気鋭の京料理店。カウンター9席、テーブル10席の小さな割烹スタイルで、店は常に満席。1ヵ月前から予約を入れるのが無難。昼5250~10500円の3コース、夜7350~15750円の4コース。夜の7350円コースは1日10食限定のため、昼で売り切れることも。

食材→食事
素材を料理にする表現の方法

伊勢海老の田楽とふきのとうのすり流し
伊勢海老の田楽とふきのとうのすり流しを合わせた一皿。田楽味噌はプレーンに仕立て、トリュフとフォワグラの香りやコクを堪能する
独特の趣向を凝らしたデザート
苺のミルフィーユやフルーツのハーブティー漬に、ピスタチオのアイス最中や栗ムースのみな月など、独特の趣向を凝らしたデザート

信頼と信用
仲買との関係を物語る品質

天然のフグ白子
「見てくださいこれ!」とご主人が誇らしげに掲げた超特大の天然のフグ白子。3月はちょうど名残りのとき。この冬最後の愉悦である
霜降り和牛
特上の霜降り和牛もかくやと見紛う鮪。「シンプルに造りで」と言いつつその演出やいかに…と身を乗り出すのがカウンターの楽しみ


京料理 修伯

■京都市東山区下河原通
 高台寺塔之前上ル金園町392
 075・551・2711
 12:00~13:00、17:00~20:00
 (いずれも入店)  
 月休(祝日の場合は営業)
2006年4月号掲載
※当時の記事の為金額等に変更のおそれがありますのでご確認下さい。

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