京都の料理職人達 vol.21
【野草一味庵 美山荘】 中東久人 氏
「自然の恵み」では生ぬるい
「自然が叶える」京料理心
「雨に煙る」と言う。雨で輪郭がはっきりした木々、山間にかかる白い靄。この花背では、言葉の真の意味が解る。冬には雪深く、雨の日には霧深い。言葉遊びではないが、美山であり深山。京都の中心街から車で1時間ばかり、道中は幽玄なる旅情すら伴う。
同店の当主・中東久人氏は言う。「京料理とは料理の原点であり、多少の進化はあるものの、精神的には平安の世から何ら変化は無いものだと思います」。この地で春には若菜を摘み、秋には茸を狩って遊びを楽しむ。平安貴族たちの文化だ。それを伝えんとするのが同店の「摘草料理」である。
食材の本来の姿、実り方、さらに生態系まで、ここでしか知ることのできないことが包丁の入れ方、熱の通し方、盛りつけを決める。「例えば鮎を釣るという行為が調理で、握ってバケツに入れるのが盛りつけ、バケツが器という感じですね(笑)」。山賊料理を論ずる訳ではなく、無論極端な例だ。器を含めた料理の意匠、見て楽しむ前味を無視することはない。ただ「どこかで物理的な計算をしているんでしょうが、感覚的、というよりも神秘的なものですね。盛りつける瞬間にもこの自然の中にいるからこそというものがあります」とも言う。
「料理に無理に名前を付けたくないんです」。素材への敬意か、フランスで学んだ経緯からなのか、そう氏は言う。フランスの料理名というのはただ長い名前ではない。素材と作り方、盛り方を説明しているのだ。今回の料理を極力短く書いても同じこと。産地からすれば、同店は最も近く早い出荷先となろう。誰よりも良いものが手に入る。その好例がこの松茸。それをただ塩で焼く。脂が蕪の味を塞いでしまうため、鰻も身のふっくら感は問わずにカリカリになるまで炭で焼く。焼き加減や塩加減の妙が重要であることは無論として、語弊を恐れず言えば「煮て焼いて積んであんをかけた料理」である。
この上ない自然が叶える料理を享受する。立地はお世辞にもアクセス至便とは言えない。だが不便で人が入ってこないからこそ環境が保てる。「中途半端な田舎では料理はできません」とまで言い切れる。ではなってしまったら、もっと奥へ? 「そうですね(笑)。でもそうならないように運動もしています。コンビニがあるような田舎にはしたくないですから」。
料理に関して「今まで人間の勘で行っていたのものを、デジタル技術を用いても研鑽しなければ」という持論を持つ。それは「食については10年は進んでいる」というフランスでの経験からである。受け継いだ店の立地とは対極にも思えるが、それらを高次元で並立させ、そしてまた同店の新たな魅力として次代に継がれていくのだろう。
同店の当主・中東久人氏は言う。「京料理とは料理の原点であり、多少の進化はあるものの、精神的には平安の世から何ら変化は無いものだと思います」。この地で春には若菜を摘み、秋には茸を狩って遊びを楽しむ。平安貴族たちの文化だ。それを伝えんとするのが同店の「摘草料理」である。
「料理に無理に名前を付けたくないんです」。素材への敬意か、フランスで学んだ経緯からなのか、そう氏は言う。フランスの料理名というのはただ長い名前ではない。素材と作り方、盛り方を説明しているのだ。今回の料理を極力短く書いても同じこと。産地からすれば、同店は最も近く早い出荷先となろう。誰よりも良いものが手に入る。その好例がこの松茸。それをただ塩で焼く。脂が蕪の味を塞いでしまうため、鰻も身のふっくら感は問わずにカリカリになるまで炭で焼く。焼き加減や塩加減の妙が重要であることは無論として、語弊を恐れず言えば「煮て焼いて積んであんをかけた料理」である。
この上ない自然が叶える料理を享受する。立地はお世辞にもアクセス至便とは言えない。だが不便で人が入ってこないからこそ環境が保てる。「中途半端な田舎では料理はできません」とまで言い切れる。ではなってしまったら、もっと奥へ? 「そうですね(笑)。でもそうならないように運動もしています。コンビニがあるような田舎にはしたくないですから」。
料理に関して「今まで人間の勘で行っていたのものを、デジタル技術を用いても研鑽しなければ」という持論を持つ。それは「食については10年は進んでいる」というフランスでの経験からである。受け継いだ店の立地とは対極にも思えるが、それらを高次元で並立させ、そしてまた同店の新たな魅力として次代に継がれていくのだろう。
中東久人 氏 なかひがし ひさと
'69年3月、京都生まれ。高校卒業後、ブラッドフォード大学・ホテル経営学科に進学。ところが「若かったもんで遊んでしまいまして(笑)、これはアメリカにいてはいかんな、と(笑)」。フランスへ渡り1年間の語学留学を経て、パリ大学ホテル経営学科に入学。三ツ星レストランなどでホール修行をした後24歳で帰国。金沢の日本料理店で料理修行をし、26歳で同店の四代目に就く。舞台裏は緻密に計算、表では自然な応対をモットーとし、その立ち居振る舞い、物腰の柔らかさは歩んできたサービス畑の土壌の良さを想起させる。
自然、生態系、生殖の環境…
最も食材に近い場所にある京料理。
創業明治28年。「他様の京料理が磁器ならば、私どものは土器とでも申しましょうか(笑)」。単なる比喩でもなく土無くしてはあり得ない料理が「摘草料理」だと言う。新設されたカウンター席であれば、1名8000円から選ぶことができる。1名35000円(夕・朝食付)からで宿泊も可能で、花背の奥座敷に建つ立派な京風オーベルジュでもある。
調理場社会
若き当主には持論がある
若くして四代目となった中東氏が率いる仕事場。物腰柔らかな氏のこと、俗に言う厨房社会の全てを肯定はしないが、やはり厳しさの方が先に立つ
野草一味庵 美山荘
■京都市左京区花背原地町大悲山075・746・0231
12:00~20:00
※要予約
http://miyamasou.jp/
2004年12月号掲載
※当時の記事の為金額等に変更のおそれがありますのでご確認下さい。
※当時の記事の為金額等に変更のおそれがありますのでご確認下さい。