京都の料理職人達 vol.20
【一子相伝 京の味 なかむら】 中村元計 氏
一子相伝で受け継がれる
一期一会の心
「一子相伝」と呼ばれる伝承形式がある。学問や技芸などの奥義を、血筋や人数を特定しない弟子に伝える「完全相伝」と異なり、血を分けた我が子ひとりだけに伝え、門外不出にすることだ。そこには「一寸違うことなく後世に伝える」という伝承者の誇りが汲み取れる。
その誇りを屋号に冠した京料理店が「一子相伝 京の味 なかむら」である。店の歴史は、文化文政時代に始まる。ぐじや鯖、鰈などの若狭ものを鯖街道を通じて京に運ぶ担ぎの魚屋であった初代、2代目より公家衆の好みに合わせ調理の技を磨いた。そして3代目には茶懐石の出張料理を、4代目には政府の要人などが泊まる旅館の仕出し料理を手掛けるようになり、やがて京料理店として暖簾を掲げた。
そして現在、一子相伝の名物料理として6代目ご主人・中村元計氏に受け継がれているのが「白味噌雑煮」と「ぐじの酒焼き」だ。
例えば「白味噌雑煮」。香ばしく焼き上げた丸餅に薄めに溶いた辛子を添え、白味噌を地下水だけで練り上げた汁に忍ばせている。これは宮中に出入りしていた時代に会得した料理だという。そのひと腕を構成するのは、「水」「味噌」「辛子」「餅」の4素材のみ。調味料や出し汁は一切使用せず、素材の味そのものを引き出す。「調理法のみを語るならばひと息で伝えられるほどのシンプルな料理です。だからこそ、ごまかしは利きません。例えば白味噌ひとつとっても、樽底は辛く、樽周りは甘いなど細かな味わいの変化を見極める必要があるし、餅の焼きが少しでも足りなければ白味噌の甘ったるさが立ってしまう。4つの素材すべてのバランスがとれて初めて完成する料理なんですね」と元計氏。
必要なのは、調理の技術というよりも「いかに食材の声を聞くか」という料理人の感性であるという。感覚的なものであるからこそ、幅広く伝承することが極めて困難なのだ。その味を幼少の頃から舌で感じ、そこに宿る心を肌身で解する子のみに伝承するという方法は、唯一無二の手法であるように思われる。
「一子相伝と言えども、決して外には明せない秘密の調理法が語り継がれている訳ではないんです。むしろ教わったのは、手にする素材、もてなすお客さまに対する精神性。修業の身だった頃、5代目である親父から雑煮の餅を『死ぬ気で焼け』と言われたもんです。『餅ひとつに命を懸けるなんて、そんな大層な』と思ったこともありますよ(笑)。でも今から思えば、全身全霊で料理に取り組む姿勢を伝えようとしていたんだと痛感します」。
親と子の間に培われる阿吽の呼吸によって、素材や客に対する一期一会の精神が脈々と受け継がれるのだ。
その誇りを屋号に冠した京料理店が「一子相伝 京の味 なかむら」である。店の歴史は、文化文政時代に始まる。ぐじや鯖、鰈などの若狭ものを鯖街道を通じて京に運ぶ担ぎの魚屋であった初代、2代目より公家衆の好みに合わせ調理の技を磨いた。そして3代目には茶懐石の出張料理を、4代目には政府の要人などが泊まる旅館の仕出し料理を手掛けるようになり、やがて京料理店として暖簾を掲げた。
例えば「白味噌雑煮」。香ばしく焼き上げた丸餅に薄めに溶いた辛子を添え、白味噌を地下水だけで練り上げた汁に忍ばせている。これは宮中に出入りしていた時代に会得した料理だという。そのひと腕を構成するのは、「水」「味噌」「辛子」「餅」の4素材のみ。調味料や出し汁は一切使用せず、素材の味そのものを引き出す。「調理法のみを語るならばひと息で伝えられるほどのシンプルな料理です。だからこそ、ごまかしは利きません。例えば白味噌ひとつとっても、樽底は辛く、樽周りは甘いなど細かな味わいの変化を見極める必要があるし、餅の焼きが少しでも足りなければ白味噌の甘ったるさが立ってしまう。4つの素材すべてのバランスがとれて初めて完成する料理なんですね」と元計氏。
必要なのは、調理の技術というよりも「いかに食材の声を聞くか」という料理人の感性であるという。感覚的なものであるからこそ、幅広く伝承することが極めて困難なのだ。その味を幼少の頃から舌で感じ、そこに宿る心を肌身で解する子のみに伝承するという方法は、唯一無二の手法であるように思われる。
「一子相伝と言えども、決して外には明せない秘密の調理法が語り継がれている訳ではないんです。むしろ教わったのは、手にする素材、もてなすお客さまに対する精神性。修業の身だった頃、5代目である親父から雑煮の餅を『死ぬ気で焼け』と言われたもんです。『餅ひとつに命を懸けるなんて、そんな大層な』と思ったこともありますよ(笑)。でも今から思えば、全身全霊で料理に取り組む姿勢を伝えようとしていたんだと痛感します」。
親と子の間に培われる阿吽の呼吸によって、素材や客に対する一期一会の精神が脈々と受け継がれるのだ。
中村元計 氏 なかむらもとかず
'62年、なかむら5代目の中村文治氏の長男として生まれる。大学卒業後、後継者の登竜門として天竜寺にて約1年半の間の修業の後、24歳より京料理の道へ。「大学時代に初めて炊飯器の使い方を覚えた」そうだが、「5代目の味を自然と舌で知っていたことが僕にとって大きなアドバンテージだったと思います」と元計氏。また、名だたる京の料亭のご主人が集う団体「日本料理アカデミー」の理事も務め、現在はフランスでの食のワークショップを計画中。日本料理の伝統と魅力を世界に知ってもらいたいと願い、精力的に活動中である。
歩み続ける食文化を
謙虚に伝えるその味
「京料理とは一種の郷土料理。風土や気候、慣習、保存方法などの環境的要素、そして平安期に都を築いたという歴史的要素などが絡み合って自然と成り立ち、そしてこれからも変化を遂げるものだと思うんです」とは元計氏の京料理論。自らを「たかが料理人」と称する氏の謙虚さが、なかむらの料理に温かみを宿らせる。昼は15,000円~、夜は20,000円~(税・サ別)。
心配り
臨機応変に心を尽くす料理人
なかむらの味を支える料理人は4名。煮方や焼方などの固定した担当はなく、臨機応変に調理が施される。だからこそ、全体の流れをとらえる目や客への心配りが培われようというもの
一子相伝 京の味 なかむら
■ 京都市中京区富小路御池下ル075・221・5511
12:00~14:00
17:00~19:30(入店)
日休(10名様以上の予約につき営業いたします。)
http://kyoryori-nakamura.com
2005年3月号掲載
※当時の記事の為金額等に変更のおそれがありますのでご確認下さい。
※当時の記事の為金額等に変更のおそれがありますのでご確認下さい。