京都の料理職人達 vol.23
 【京 南禅寺畔 瓢亭】 高橋義弘 氏 

和敬静寂の心が育む
 究極のニッポン文化

 花鳥風月、もてなしとしつらいの美学。日本的な文化はおおむねこの精神に集約される。その心を育んだのは他でもない茶の湯の道だ。茶道とともに発展した茶懐石料理は、「京料理」と一からげに呼ばれる膨大な様式の中で、たしかに大きな意味と責任を担う。その老舗である「瓢亭」の次代を背負うべく研鑽中の高橋義弘氏は、京料理とは何か?という問いに、遠慮がちにも「日本の全文化の集約したものだと思います」と答えてくれた。人間にとって不可欠である「たべること」。そこに人の関心と好み、意欲が凝縮するのは必然だ。あらゆる人々が結集した古都・京都で、料理は人の営みの全てを蒸留した。ゆえに京料理=日本文化。だがそれは、時にストイックで堅苦しいものと思われがちだが、基本的には、雑食である日本人の快楽主義のたまものなのである。
 では、「瓢亭」における表現方法はどうか。
 「何を食べたかよく憶えていられる」と評される「瓢亭」の料理は、主役の素材をオーソドックスにアピールするものが多い。造りでは魚は一種、焚き合わせでも三~四種にとどめ、直球型の味わいを見せる。一つひとつが印象的なハマリ役を演じる料理だ。その中でも花形役者が鯛である。「鯛を嫌う人はいないし、年中通して美味、品格も突出」。その持ち味をシンプルに活かすには、品質も状態も最高でなくてはならない。明石の二キロ前後のものにこだわるのはそのためだ。
 そしてただ素材の良さだけに甘んじず、さらにその上を行く美味を引き出すための、貪欲なまでの追求がある。まさにこうした工夫の形で、昔から培われた文化というものがあらわれるのだ。淡白な白身に昆布のうまみ成分を沁みこませる昆布締めの手法は、身の弾力を楽しめる、ひと口分にちょうど適した細切りにすること。昆布に水分を取られてしまわないよう、煮切り酒などを降りかけてから昆布にはさみ、重石をすること。昆布の香りを引き出すためには、単純な醤油でなく数種類の柑橘類の絞り汁を合わせた清涼感のある割りだしを合わせることなど、それら全てが、ものをより美味しく食べんがために重ねてきた知恵の結晶なのだ。  そうして積んだ人々の工夫がそのまま歴史となって、「瓢亭」を築く。「独りでは何もできません。漁師と担ぎ屋さんがいい鯛をくれて、お店の子が水洗いしてくれて、お客さんに来て頂いて初めて捌けるんです」。義弘氏は「色々な人が介在すること」を強調した。それはけして雲の上の出来事ではなく、これからも種々雑多な人や物事から実を結んでいくことなのである。
高橋義弘氏 たかはしよしひろ
'74年、瓢亭14代当主の高橋英一氏の長男として生まれる。大学卒業後、金沢の料亭で3年の修業を積み、'99年帰洛。休日には禅寺をめぐり、うつわ造りも勉強したいと語るなど、30歳にしてかなり渋い好み。趣味人としても名高い父・英一氏から受ける刺激もあろうが、むしろ「10年以上家を離れて外の世界に触れたことで、改めて京都の良さや面白さに気づくようになりましたね」。今は京都の奥深さをさらに勉強し吸収したいと語る。

日本を支える文化の集大成
 真っすぐな基本の京料理

 約四百年前、南禅寺詣での途中に茶店として庵を結んだのが始まり。天保八年(一八三七年)八月十五日より料亭として暖簾を掲げて以来、格式高い茶懐石の本流として要人の利用も多い。数寄屋造りの建物はまさに市中の山居といった趣。懐石料理は昼21735円~、夜24150円~。別館では松花堂弁当4620円など気軽な食事もいただける。

 

名物「瓢亭玉子」は全メニューに付く。白身は固く黄身はねっとりとした、まさに完璧な半熟玉子。器は古九谷花鳥絵鉢
瓢亭玉子
人気の「朝がゆ」5500円は7~8月の8:00~10:00にいただける。(隣の別館では4~11月、8:00~11:00で4100円)。冬はうずらがゆとなる
朝がゆ
柑橘風味の割りだしでいただく「鯛の細造りの昆布締め」。弾力のある身は、噛むほどに味わいがにじみ出る。器は永楽即全作の交趾芙蓉向付
吟味
王者の風格で食の王道を行くき
上品で季節を問わず、誰の口にも合う魚の王様。明石直送の2kg前後の鯛は、脂乗りや身の活け越しも最高のもの。調味料はごく控えめに
工夫
美味を引き出す古来の知恵
1センチ幅の細造りにした身を、5時間ほど利尻昆布で締めてうまみを沁みこませる。魚を美味しく食べるための先人の知恵が凝縮した手法


協力
孤軍奮闘では出来ないこと
義弘氏の隣でひときわ優しい威厳を放つのが、現当主の英一氏。老若とりどりの厨房のムードは和やかで、さながら大家族のようだ

京 南禅寺畔 瓢亭

■京都市左京区南禅寺草川町35
 075・771・4116
 本店11:00~19:30L.O.
 別館8:00~16:00
 第2・4火休(別館は木休)
http://hyotei.co.jp/
2004年5月号掲載
※当時の記事の為金額等に変更のおそれがありますのでご確認下さい。

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