京都の料理職人達 vol.24
 【京料理 たん熊 北店】 栗栖正博 氏 

心でこそ味わいたい
 究極のもてなし料理

 「京都という一地方の料理ということではなくて、『もてなし』の心が込められた料理。和食の究極のおもてなしの料理が京料理なんやね」。京料理とは何か?という問いに、そう答えてくれたのはカウンター割烹の先駆けとして、木屋町四条に店を構える「たん熊 北店」三代目主人・栗栖正博氏。
 そう、京料理ほど定義が難しい料理はないのではと思えるほど、その解釈は様々だ。宮中の儀式的意味合いを持つ「有職料理」、仏教の「精進料理」、茶道より発展した「懐石料理」など、多様な要素が相まって京料理を作り上げてきた。京料理と掲げる店が百軒あれば、それは百種類の料理があるということなのだ。
 では「たん熊」の料理は何をもって組み立てられているのだろうか。
 まずは継承し、この先も受け継がれ続けてゆくであろうもの。それは味を決める食材だ。地下60mから汲み上げる井戸水、枕崎産の本枯れ節と利尻産の昆布でとる出汁、宮川町・山利の白味噌。「この水と鰹節と昆布で出汁をとる、それがたん熊の味の基本」。和食の味の根幹となる出汁を変えれば、美味しい料理を作ることはできても「たん熊」の味にはならない。調味料で言えば味噌がそれにあたる。その味を期して店を訪ねる人々に応えるため、これから先も変えることのない要素。これが一側面。
 だがそれは決して、伝統に胡座をかくわけではない。新しい技術には積極的に触れ、試し、取り入れる。下処理を済ませた食材を真空にして保つ真空パックしかり、蒸す・焼く・煮るが一台でこなせるスチームコンベンションしかり。「作り方が違ごても同じ味になればいい」からと、追求には余念がないのもまた一面だ。
 そしてその継承と革新をまとめあげるのが人である。カウンター割烹に加え、現在では座敷も持ち、仕出しも行う「たん熊」。組み立てられた献立を個々の食する時間を計りながら供する座敷、注文に応じて臨機応変にこしらえるカウンター、そして注文の入る時間の読めない仕出し。三者三様のスタイルでお客をもてなすためには、あらゆるものに目を遣り差配する舵取り役の存在と、舵取り役の意をくみ取り支えるべく、焼く・煮る・揚げるといったそれぞれの持ち場で自分の仕事をまっとうする料理人が必要不可欠なのだ。  栗栖氏と三役が合わさり、完成する「たん熊の京料理」。  「お腹を膨らすだけでいいんなら、こんな高いところじゃなくてもいい」。そう栗栖氏は言う。返せば、ただ空腹を満たすだけではない要素が凝縮された時間がある、ということだ。そのひと言に集約される自信。何ものにも代え難い「もてなしの心」に触れるひと時がここにあり、そして、その間口は思うよりも広いのだ。
栗栖正博 氏 くりすまさひろ
'57年、京都生まれ。大学卒業後、「たん熊北店」へ入店し、二代目の元で修業を重ねる。'88年、三代目に。「食べてもらわへんと、料理の本当の良さは伝えられへん」と、一人でも多く人へ「たん熊」の味を伝えるべく、料理人を育て出店を構えることも仕事のうちと話す。一方で「たん熊」の味は守りつつも、「まる鍋の具をフカヒレに替えてみる、なんていうのは保存方法が発展した時代のおかげやね」と、新たな試みにも意欲的。

料理に向かう心構え
 背筋は伸ばして肩肘張らず

 '28年、初代・栗栖熊三郎氏が現在の地に創業したカウンター割烹。屋号は名前から一文字とった「熊」と、修業先であった「たん栄」の「たん」を組み合わせたもの。戦後、座敷を設け、カウンターと座敷と仕出しという現在のスタイルに。昼は三千円の半月弁当から。夜はカウンターでの注文料理か、座敷でいただく一万五千円~のコース。

 

継承
「たん熊」の味を決めるもの
本枯れ節は脂の少ない背のほうを使うことも初代からの決まり事。調味料も塩や砂糖は異なっても味に大差ないが、味噌は違う
新技術
既成概念にとらわれず進む
新調理器具のチェックも貪欲だ。ホームページも'95年に立ち上げた。分野外についても必要と思えば、待ったはなしで取りかかる
初代がカウンター割烹ゆえの一人鍋を考案。蓄熱性の高い楽焼きでオーダーした専用鍋で供される「まる鍋」4000円 
秋の20000円のコースより、「前菜(手前)」と「焼き物」。これに「まる鍋」などが加わった全10品で、組み立てられる

舵取り
人をまとめ料理を生み出す
左から倉本店長、栗本料理長、池本主任。持ち場を分担し、料理に取り組む姿を目の当たりにすることができる特等席のカウンターの

京料理 たん熊 北店 本店

■京都市中京区河原町四条上ル三筋目東入ル
 075・221・6990
 12:00~14:00(L.O.)   17:00~22:00(L.O.20:30)
 第2・4火不定休
http://www.tankumakita.jp/
2004年2月号掲載
※当時の記事の為金額等に変更のおそれがありますのでご確認下さい。

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